WEDGE REPORT

2020年12月1日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

不当な王発言に茂木氏は薄笑い

 1997年10月のクリントンー江沢民共同会見と、2020年11月24日の茂木、王毅両外相のそれと比較してみるとどうだろう。日本の対応の甘さは歴然としている。

 茂木・王毅共同記者発表の経緯はすでに報じられているが、あらためて、この場での王毅外相の長広舌に触れる。

 茂木氏に次いで発言した王氏は、その最後で、「釣魚島(尖閣の中国側呼び名)の情勢、事態を注視している。ひとつの事実を紹介したい」と述べ、会場の耳目をひきつけた。

 そのえで、「真相をわかっていない日本の漁船が敏感な水域に入る事態が起きている。中国側としてはやむをえず、必要な反応をしなければならない。中国は引き続き主権を守っていく」と述べ、法令に従って操業している漁船を不当に非難。「敏感な水域で事態を複雑にする行動は避けるべきだ」と言い放った。

  「盗人猛々しい」とは、このことだろう。

 他国の領土、領海をいつの間にか、自らのものとし、堂々とそれを主張するという厚顔ぶりは、今に始まったことではないが、「事態を複雑にする行動」をとっているのはどちらか。公船による常習的な領海侵犯などを考えれば明らかだろう。噴飯ものというべきで、その発言を、そっくりそのままお返ししたい。

 茂木氏も内心ではさぞかし不愉快だったろうが、この場では、薄笑いをうかべているだけで、一言も発せず、会見はそのまま終了してしまった。

 王毅外相の暴言はこれにとどまらなかった。

 氏は翌25日、菅首相を表敬訪問した後、記者団に、「偽装した日本の漁船が繰り返し敏感な海域に入り込んでいる」と事実無根の批判を展開した。自分たちが多数の偽装漁船を送り込んでいるから、こういう発言が出るのだろう。他の国も不法行為に手を染めていると思われたら迷惑千万だ。

即座に反論することこそ重要

 会談の翌々日、26日に開かれた自民党外交部会などの合同会議で王毅発言、茂木外相の対応が槍玉にあげられたのは当然だろう。

 決議文を突き付けられる破目になった政府側では、加藤官房長官が同日の記者会見で弁明したが、これもお粗末だった。

 加藤氏は「日本の立場は外相会談、共同会見の場でも伝えられたはずだ。共同記者会見は日中双方が一度ずつ発言する形になっていた。王毅氏の発言は、受け入れられないと申し入れた」と説明した。

 たしかに、茂木外相は、共同発表で王毅氏に先立って、中国側の「前向きな対応を促す」と述べてはいる。しかし、その後に発言した王毅氏が誤った主張をまくしたてたのだから、会見のルールに拘泥して沈黙を守っているなどということは日本の外相として許されることではあるまい。

 加藤官房長官の説明同様、茂木外相自身も11月27日の参院本会議で、記者発表後に、中国側に日本の立場を伝えたと説明した。しかし、公開の記者発表の場での発言に、即座に反論せず、後刻何か言ったところで何の効果があるというのだろう。

 中国は日本の立場など先刻十分に承知だ。日本の立場を繰り返し伝えることはもちろん重要だが、今回は、共同記者発表の場で即座に反論することにこそ、意味があったのであって、後になってモノを言っても無視されるだけだろう。官房長官、外相も本心では、そんなことは知っているのだろうが。 

 共同発表で反論しなかった事実は重い。将来、中国側に付け入るスキを与えることになってしまえば、〝大人の対応〟の代償はたかくつくことになるというべきだろう。

  
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