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2020年10月30日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

(Belus/gettyimages)

 やはりというべきか。

 菅首相の北方領土問題に対する方針は歯舞、色丹の「2島返還」であることが明らかになった。

 29日の国会答弁で首相は、1956年の「日ソ共同宣言」を今後の交渉の基礎とする方針を鮮明にした。4島返還から2島返還に転換した前政権の方針をそのまま引き継ぐようだ。

 安倍政治の継承が菅内閣の基本方針であることを考えれば予想されたことではあったが、一方で首相は、今月26日の臨時国会初日、施政方針演説で2島引き渡しが明記された「日ソ共同宣言」への言及を避け、9月の自民党総裁就任会見でも「4島の帰属」に言及するなど政策転換をにじませるような発言もしていた。

  安倍退陣、自らの就任は、主権放棄にも等しい2島返還論を捨て去り、従来の日本の大方針「4島返還要求」に立ち戻る大きな契機になりえたが、首相の〝虚言〟によって、チャンスは潰えた。国後、択捉を含む「4島返還」はいっそう遠のいたと言わざるをえない。

代表質問で「56年宣言」明言

 10月29日、臨時国会の参院代表質問で、立憲法民主党の福山哲郎幹事長が、2島返還へ方針変更したこと、「北方4島は日本固有の領土」という表現が2019年版外交青書から抹消されたことなどを指摘。ロシアに誤ったメッセージを与えたーと追及した。

 菅首相は「北方領土はわが国が主権を有する島々であるという政府の立場に変わりはない。平和条約交渉の対象は4島の帰属問題であるというのが一貫した立場だ」と反論、表面上は4島返還にこだわるかのような姿勢もみせた。

 しかし、その一方で、9月29日のプーチン大統領との電話協議に言及、「56年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を継続させることをあらためて確認した」と説明、大統領から、あらゆる問題を話し合いたいと表明があったことも紹介した。大統領が領土問題でどう発言したのか言及はなかった。

 意図的だったかは別として、代表質問への答弁という国民に語りかける場で、56年宣言つまり「2島返還」を継承するという自らの方針を明確に示した形となった。

所信表明には「2島」なかったのに

 しかし首相は、就任以来、56年宣言、2島返還をからは距離を置くようなニュアンスの発言を繰り返していたのも事実だ。 

 10月26日、臨時国会召集日の所信表明演説で首相は、「次の時代に先送りすることなく、終止符をうたねばならない。平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指す」と簡単に述べたにとどまり、2島引き渡しがうたわれた56年宣言については一切言及を避けていた。

 2020年1月の通常国会での安倍首相(当時)の施政方針演説と比べても、そっけなさはきわだっている。

 安倍氏は「1956年宣言を基礎として交渉を加速させ、領土問題を解決して平和条約を締結する。私と(プーチン)大統領との間で成し遂げる決意だ」と述べていた。

 施政方針と所信表明の違いはあるにせよ、「56年宣言を基礎」という表現は、今回の菅演説でそっくり抜け落ちていた。特別な意図があるのではないっかとの憶測を呼んだ可能性もあろう。 

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