2022年8月8日(月)

WEDGE REPORT

2020年10月30日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

100年先に禍根残す

 シンガポール合意は2018年11月に、安倍首相とプーチン大統領が、同地で会談した際になされた。

 日本とソ連の国交回復などを盛り込んだ1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を、今後の平和条約、領土交渉の基礎とするという内容。

 共同宣言には「ソ連は歯舞群島及び色丹島を日本側に引き渡す」と明記されているが、国後、択捉については言及されておらず、これを基礎とすることは2島だけの返還をめざすことを意味する。

 安倍首相はシンガポール合意の直後、国会などで「私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」と述べ、2島返還実現への強い自信を示したが、4島返還を勝ち取ることが無理なら、せめて歯舞、色丹の2島返還実現を目指すというのが安倍氏の意図だった。

 しかし、2019年の年明けからロシア側は再び強硬姿勢に転じて交渉は停滞。2020年7月、ロシアの憲法改正で領土の割譲が禁止されるに及んで、2島返還も絶望的な状況に陥った。 

 国後、択捉、歯舞、色丹の北方4島がかつて一度も他国の領土になったことがない日本固有の領土(外務省編「われらの北方領土」)であることは明白だが、日本の政治家の中には、残念ながら実績作りを目的に2島返還を促進する勢力がある。

 ロシア、北方領土の専門家といわれる人たちの間にも、返還手続きが困難で時間がかかること、開発に莫大な費用を必要とすることなどから、〝お荷物〟視する向きが少なくない。不幸なことだろう。 

 日本はロシアに北方4島を不法占拠されているだけでなく、尖閣諸島は中国、竹島は韓国と、隣国すべてから不当な領有宣言をつきつけられている。

 そうした事情があるだけに、ロシアのかたくなな姿勢に対抗しきれず、国後、択捉両島を手放すとなれば、主権を放棄することにつながり、「違法でも占拠、要求を続けていれば日本はかならずあきらめる」という誤ったメッセージを各国に送ることになる。そうなれば、尖閣、竹島の将来の命運も明らかだろう。

 安倍首相は 「4島返還」から「2島返還」という重大な国策変更を国民の信を問うこともせずに実に安易に断行した。しかし、領土は戻らず、国益を大きく損なった。

 この一部始終をみていた菅首相は、安倍内閣の政策を引き継ぐという名分だけによって、やはり大きな議論もなく「2島返還」に与するのだろうか。国後、択捉を放棄すれば100年先まで禍根を残すだろう。

  
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