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2020年10月7日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 新型コロナウィルスに感染したトランプ米大統領は入院わずか3日でホワイトハウスに戻った。すぐにも選挙運動に復帰する予定で、今月15日に予定されている第2回候補者TV討論でも、予定通り民主党のバイデン候補と論戦を交わすという。バイデン氏は現時点での討論開催
に反対している。とうてい完治とは言えない状況のなか、大詰めのハイライトで回復をアピールできるのか。過去のディベートでは、体調不良のために精彩を欠き、敗北につながったケースもみられたが……。

(HAKINMHAN/gettyimages)

「危機脱したわけではない」

 トランプ大統領の感染判明、入院、退院までの72時間の動きについては、全米だけでなく日本を含む世界中のメディアが細大漏らさず報じている。

 ホワイトハウスに戻った大統領は大勢の人に手を振って応えたが、さっそくマスクをはずして見せた。「まだ、わかっていないのか」と思いたくもなろうが、大統領は「コロナに人生を支配されるな」などと意気軒高。

 感染の機会にさらされる周辺の人々の心中を察したくもなるが、ホワイトハウスにしてから、大統領報道官や顧問ら10数人が感染しているというから驚く。

 気になるのはもちろん、入院前に一時、深刻な状態に陥ったという大統領がわずか3日間で完治したのかーということだろう。大統領が入院していたウォルター・リード軍医療センターの主治医、ショーン・コンリー医師は「危機脱したわけではない。24時間体制で見守る」と慎重な見方を崩していない。トランプ氏は、医師団のアドバイスを振り切って退院を強行したようだ。

 一週間から10日はホワイトハウスにとどまり、オンラインでの選挙運動を行うとみられるが、選対幹部が明らかにしたように、今月15日の第2回討論に出席を強行した場合、思うように力を発揮して有権者にアピールすることができるか?

発熱、TV映り悪かったニクソン氏

 トランプ氏の健康が懸念されるなかでのTV討論、思い起こすのは、いまなお語り草になっている1960年のニクソン(共和党)ーケネディ(民主党)両氏による候補者討論だろう。

 この選挙で初めて行われたディベートでは、47歳と若いながらもアイゼンハワー政権で副大統領を経験したリチャード・ニクソン氏(共和党)と、氏よりさらに4歳若いジョン・ケネディ氏(民主党)が激しい戦いを演じた。

 老練な政治家、ニクソン氏が当初、選挙戦でも有利とみられていた。

 しかし、討論会当日、氏は風邪をこじらせて発熱、顔色も悪く、汗をしきりに拭う姿からは、濃い疲労がにじんでいるようにみえた。

 対するケネディ氏はマサチューセッツ州の名門の出身、43歳とニクソン氏よりさらに若くてハンサム、爽やかな表情で語りかける姿は多くの有権者を魅了した。ニクソン氏は僅差ながら一敗地にまみれた。

 氏は確かにテレビ映りでは見劣りしたが、討論内容では必ずしもひけを取っていなかった。顔が見えないラジオ視聴者のうち、少なくない人々が討論の勝敗を聞かれてニクソン氏に軍配を上げた事実がこれを裏づける。

 テレビが黄金時代を迎えたことと相まって、これ以降、各陣営が映像を意識、重視しはじめた。いわばイメージ選挙の幕開けだった。

時計に目落とし「重圧に耐えられぬ」

 ニクソン氏が苦杯をなめた健康問題だけでなく、テレビ討論では容姿、挙措動作、政策や思想信条、判断力などすべてが試される。不意な問いかけ、〝毒〟を含んだ質問を通じて、国民の目にあますところなくさらされ、超大国の指導者にふさわしいか、有権者のきびしいチェックを受ける。

 「互いに侮辱しあっただけの子供じみた内容」(ニューヨーク・タイムズ)と酷評されたた9月29日夜の討論では、残念ながら、見られなかったが、過去には視聴者をうならせ、国民を熱狂させて選挙結果を左右する数々のドラマが演じられてきた。

 1992年、再選をめざす共和党のブッシュ大統領(父)はアーカンソー州知事、ビル・クリントン氏(民主党)の挑戦を受けた。矢継ぎ早の厳しい質問に辟易したのか、一瞬、腕時計に目を落とした。これをTVカメラが見逃さなかった。「長時間の重圧に堪えられない男」というイメージが広がり、〝一期だけの大統領〟で終わってしまった。前年の湾岸戦争を勝利に導き、一時は圧倒的な人気を誇ったにもかかわらずだ。

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