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2020年9月7日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 旧ソ連時代に開発された猛毒、「ノビチョク」がまたもテロに使用された。ロシアの反政府指導者が航空機内で苦しみだし、体内から同系統の毒物が検出された。

 ここ数年、ロシア当局の関与が疑われる同様の事件が相次いでいるが、前世紀から、その手口、手段はいずれも荒っぽいものばかりだった。薬物、放射性物質、毒を塗った〝仕込み傘〟……。

 スパイ小説を彷彿とさせるほど〝多彩〟だ。

(AlexLinch/gettyimages)

空港で飲んだお茶に毒 

 今回、被害にあったのは反政府運動を主導してきた弁護士のアレクセイ・ナワリヌイ氏(44)。

 8月20日、シベリアのトムスクからモスクワに向かう航空機の中で、突然体調を崩し、意識を失った。英BBC放送は、近くに座っていた乗客の証言として、「離陸してから状態がどんどん悪くなった。苦痛のあまり叫びをあげていた」と伝えている。

 緊急着陸、搬送されたオムスクの病院関係者は当初、「毒物が盛られたらしいので緊急治療室にいる」と語ったが、翌日には「毒物の兆候はない。自然な中毒も考えられる」と説明を変えた。

 氏はその後、夫人の強い要求もあってドイツ・ベルリンの病院に移送された。

 病院によると、生命の危険は遠のいたが、依然深刻な容体が続いており集中治療室で手当てが行われている。

 氏の広報担当者は、トムスクの空港で飲んだお茶に薬品が混入されていた可能性を指摘している。

 ベルリンの病院からの要請をうけて軍の研究所が分析したところ「ノビチョク」と同系統の神経剤が検出された。ドイツ政府報道官は、これによる中毒であることに「疑いの余地はない」として、「ロシアに説明を求める」ことを明らかにした。 

米独英など各国が厳しく非難

 メルケル首相は「ナワリヌイ氏が被害者であることは確かだ。氏を沈黙させることが目的だった」として強い調子でロシアを非難した。

 アメリカのビーガン国務副長官は8月末、ロシアでラブロフ外相と会談したさい、この問題をとりあげ「事実なら厳しい制裁を科す」と警告、ラブロフ氏は「事実無根だ」と反論した。

 イギリスのラープ外相も「ロシアに真実を語るよう要求する」と述べ、NATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)も、ロシアの非を鳴らすことで足並みをそろえている。

 ナワリヌイ氏はプーチン政権の汚職を一貫して追及、9月に予定されている統一地方選挙では与党「統一ロシア」に対抗する候補への投票を呼び掛けていた。これまで、不法な抗議活動などを理由に禁固刑を科されたり、抗議運動中に顔面に消毒液を浴びせられてけがをするなど、たびたび危険な状況に遭遇してきた。

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