WEDGE REPORT

2020年9月7日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

街頭で〝仕込み傘〟殺人

 しかし、何といってもいまだに忘れられない衝撃的な事件は、1978年にやはりロンドンを舞台に起きた〝毒傘殺人〟だ。

 当時、旧ソ連の衛星国だったブルガリアからイギリスに亡命、BBC国際放送のアナウンサーをしていた反体制活動家が、テムズ川にかかるウォータールー・ブリッジを歩いているときに突然、右足に鋭い痛みを感じた。

 振り返ると、男が落とした傘を拾いながら、「誤って先端で突いてしまった。申し訳ない」と詫びの言葉を述べた立ち去った。

 その後高熱に見舞われ、3日後に亡くなった。検視の際、体内から穴の開いた小さな弾丸が発見された。弾丸の穴からにじみ出た毒物のリシンによる中毒が死因ではないかと想定された。傘は偽装が施された空気銃だった。

 当時、この銃を用意したのはソ連のKGB、暗殺を実行したのはブルガリアの情報機関員といわれる。 

 どんな手段を用いることも躊躇しない冷酷さがクローズアップされるきっかけとなった事件であり、年配の読者の中にはご記憶のむきもあろう。 

日本はまた頬かむりか?

 ナワリヌイ氏が被害にあった事件に話を戻す。

 ビーガン米国務副長官によると、今回の事件で制裁が発動されれば、2016年の大統領選へのロシアの不正介入事件を超える、大規模な内容になる見込みだという。

 米国は今後、各国と足並みをそろえ制裁内容を検討するとみられるが、日本に同調を求めてきた場合、政府はどうするか。

 ナワリヌイ氏の事件について日本政府はは、安倍首相の辞任表明という混乱もあってか、コメントなどを出していないようだ。

 日本政府は、やはりノビチョクが使用された2018年の元大佐父娘の事件のさい、欧米各国が厳しい制裁を科したにもかかわらず、〝われ関せず〟を貫いた(当サイト2018年4月2日、『ロシアのスパイ暗殺未遂、日本はほおかむりを決め込むのか』参照)

 日露間には北方領土交渉というデリケートな問題があり、安倍首相とプ-チン大統領の関係が良好といっても、今回も同様の対応をとれば、日本が「人権」に敏感さを欠き、外交における比重が小さいという印象を各国に与えるだろう。国際的な規範の尊重に消極的と映るかもしれない。

 安倍首相は、プーチン大統領との電話で辞任のあいさつをしたようだが、それだけにとどめたのは残念だった。耳の痛い忠告を躊躇しないのが真の友人のはずだからだ。

 新政権には積極的な姿勢を期待したい。

  
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