地方の統治体制は、教育委員会などの行政委員会が多用されているため国よりも一段複雑になっていてややこしく、一般職公務員の懲戒処分権限も首長ほか各任命権者に分散されている。さらに、人事行政の場合、国に人事院があるように、地方には人事委員会(ないし公平委員会)が置かれ、中立的立場から人事行政に関する勧告や職員の不利益処分の審査を行うものとされる。
現在、人事院については国家公務員制度改革法案のなかでその廃止が盛り込まれているが、地方の人事委員会の改革論議がほとんど聞かれないことはさておき、人事委員会がきちんと機能していることは、地方の人事行政の適正さを示すバロメータということができる。
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ここに人事委員会の実情の一端を窺わせるデータがある(公平委員会のデータを含む)。総務省の統計によれば、地方公務員に対する懲戒および分限処分数は全国で毎年3万件程度あり、そのうち処分を不服として人事委員会等に持ち込まれる件数は200件程度である。
ところが、人事委員会等に係属する事件数は何と20万件にも上っており、事件が何十年もたまったままになっていることがわかる。これを繰越率でみると、平成21年度は98.8%、すなわち20万件のほとんどが翌年に繰り越され、処理されたのはわずか668件、しかもそのうち451件は「請求者の退職等による審査終了」となっており、人事委員会等が紛争を裁いて事件が終了したものではない(内閣府行政刷新会議の行政救済制度検討チームにおける総務省提出資料より)。
これは信じがたい数字であり、懲戒処分を受けてこれに不満な者は人事委員会等に審査請求をするが、事件を定年まで引っ張り、退職をもって事件が打切りとなるプロセスが常態化している可能性を示唆している。
総務省によれば、長期継続案件の多くは違法な争議行為への参加を理由とする懲戒処分に関するものであるという。この数字は全国の総計であり、自治体ごとに精査する必要があるが、一般に、懲戒処分が非常に慎重に行われること、人事行政の要の組織である人事委員会等の仕事ぶりがこのような状態であることを踏まえると、地方の人事行政の実態につき危惧の念を抱くのは筆者だけではなかろう。
こうして、地方公務員は、政治的行為の制限に違反したとしても、法律上罰則はなく、懲戒処分もまずなされることはなく(免職の例はほとんどないとのことである)、懲戒処分を受けても人事委員会等にひっかけて定年まで引っ張ることができるというなら、結局、制裁は事実上存在しないも同然であり、モラルハザードは避けられない。
国家公務員の場合には統計上このような特徴はみられず、地方公務員の世界は一般人の想像を超えた異空間が形成されているのかもしれない。このあたり、本格的な実態調査が必要であるように思われる。