2024年4月29日(月)

Wedge REPORT

2020年12月4日

 新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年、外食産業は大きなダメージを受けたが、スタートアップのMOON-X(東京都目黒区)はオンラインだけで自社ブランドのクラフトビールを販売するD2C(Direct to Consumer)を展開している。ウイズコロナ、さらにデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代に、非接触で完結できる新しいビジネスモデルになるか。

(KEN226/gettyimages)

消費者と一緒にブランドを作る

「世の中を変えるのはいつの時代も、よそ者、若者、そして馬鹿者なんです。私たちには、しがらみがありませんから、新しいことができる」

 クラフトビール「CRAFT X」などを手がけるMOON-Xの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)の塩谷将史(えんや・まさし)は話す。

 同社は2019年8月に創業したばかり。「日本のモノづくりとテクノロジーの融合」を事業ビジョンに掲げ、いわゆるD2 C(Direct to Consumer)を展開している。

 D2Cとは、メーカーやブランドが自社で企画、製造した商品を、流通を介することなくEC(電子商取引)サイトにより直接消費者に販売する仕組みである。SNSを使って顧客とのコミュニケーションを重視しているのが特徴。ユーザーの声を素早く商品の改良に反映するなど、きめ細かなモノづくりとマーケティングを結びつけている。こうして、コアなファンをつくり独自のブランディングを展開していく。大手企業のように、大量の宣伝費を使ったマスメディアによる一方的な商品広告などとは、一線を画する。

 アメリカではアパレルを中心に、2010年頃に登場した。生産を外部に委託するケースもある。データやサービスをオンラインで提供するのではなく、アパレルやコスメ、食品、日用品などの実態のある商品を提供する。

 流通を介していないので、会社の意思やブランド思想を、消費者へダイレクトに伝えられる。流通コストもかからない。

 一方で、商品を発売したら終わりではなく、その後もユーザーとの濃密なコミュニケーションを基にしたブランドの進化が継続して求められる。

「アメリカでのD2Cの成功自体がひとつのブレークスルーになっていて、2年ほど前から日本にも上陸し私たちにとっては追い風になっています。D2Cとは、ダイレクトに消費者へ商品を売るのではなく、消費者と私たちがデジタル上でつながれて、ブランドをつくっていくことなのです。ブランドを認知してもらえれば、売る場所はアマゾンでも楽天でも、コンビニでもかまわないのです」(塩谷)

 MOON-Xはアップルと同様に、工場を持たないいわゆるファブレスである。販売はオンラインのECだけ。スーパーやコンビニ、酒販店の店頭に商品が並ぶことはいまのところない。

 生産はクラフトビール大手の木内酒造(茨城県那珂市)を中心に、外部へすべて委託している。

 塩谷が、共同創業者でCEO(最高経営責任者)の長谷川晋から、D to Cについての事業プランを打ち明けられたのは創業半年前の2019年2月。クラフトビールはこの時点では、現在も展開しているコスメなどとともに、扱おうとしている商材の一つに過ぎなかった。

 それでも、クラフトビールが最初に取り扱う商品となったのは、木内酒造が生産委託に即応してくれたためだった。

 創業直前の7月、長谷川と塩谷は木内酒造を訪ねる。既に何度か接触し根回ししていたが、この日は木内酒造が催す「ビール造り体験」への参加という名目でだった。が、木内洋一社長に初めて会い挨拶した折、長谷川は居住まいを正すといきなり切り出した。

「突然ですが、重要な提案があります。本日はビールを造りに来たのではなく、我々にはやりたいことがありまして…」「我々はブランドとデジタルをやります。いろいろなブルワリーとコラボレーションして、生産はプロのみなさんにお任せしていく…」

 ここを機に、展開は一気に進む。

 第一号商品は、国内クラフトビール市場で人気が高いIPA(インディア・ペール・エール)の「CRAFT X」。

 木内酒造が醸造を開始したのは、MOON-Xが設立した直後の9月。11月には試験販売にこぎつけるが、この間、MOON-Xは酒類の販売免許を取得する。生産と免許取得とが同時並行の作業だった。

 新ビジネス立ち上げで最も重要なスピードを、パートナーの木内酒造により得ることができた。

 木内酒造の木内洋一社長は、最初の面談を振り返り次のように話す。

「面白い提案だと感じました。我々は、酒造りのプロではありますが、製品の魅力をネットで発信することに関してはまだまだ知識が足りていません。長谷川社長から『日本の良いものをテクノロジーの力で発信していきたい』と言われた時、『これこそ次世代の売り方だな』とビビッときたのです」


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