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2020年10月1日

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永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

(Vadym Terelyuk/gettyimages)

 「コンビニのプリンと、パティシエがつくる名店のプリンは、値段も味わいも明らかに違うでしょう」「万人受けを狙った大企業による大量生産品ではない。小回りの利く中小企業が職人の手で多品種少量につくっていくのがクラフトビールです。つまりモノづくりの世界は違う」「社会が多様化した現在、メガヒットは出にくい。それだけに、多品種少量生産のクラフトビールの可能性は高いはずです」

 コエドビールを展開する協同商事(埼玉県川越市)の朝霧重治社長は、速射砲のように言葉を続ける。クラフトビール事業に対する思いの強さが滲む。

 「コエドビールは、本当の意味での”地ビール”なのです。川越特産のサツマイモを原料とした発泡酒から事業は始まったから。多品種少量のモノづくりを支えるコンセプトは、地元地域。ワインでいうテロワールです」

 テロワールとは、「土地」を意味するフランス語。ワインの世界では、ブドウの樹を取り巻くすべての環境を指す。畑がある地域の気候、畑の土壌、地形(傾斜地なのか、平地なのか、どの方角をむいているのか)など。

 とりわけ、ブドウ品種であるピノ・ノワール(主に赤ワインに使われる黒ブドウ)やリースニング(白ワインに使われる)は、品種が同じでもテロワールによって醸造されたワインの味わいは異なる。同じピノ・ノワールであっても、仏ブルゴーニュ産なのか、米カリフォルニア産なのかで、ワインは別ものとなるわけだ。

 ちなみに、果実酒であるワインの場合、ブドウに最初から含まれている果糖を酵母が食べてアルコール発酵させるのに対し、穀物酒のビールでは麦芽に含まれるデンプンをまずは糖化させてから発酵させる。ビールには糖化工程があり、醸造方法に違いはある。

 しかしそれ以前に、大手が大量生産するビールでもクラフトビールでも、原材料の大麦は主に輸入されているためか、テロワールの考え方そのものがない。これは日本に限らず、海外でも同じだろう。

 これに対しコエドビールは、1996年に川越地域で生産されるサツマイモを原料とするビール(酒税法上は発泡酒)を開発して商品化したのが、クラフトビール事業の始まりだった。つまり主原料が、地元産なのだ。

 サツマイモは、形状から農家が出荷できない規格外品を使う。「全生産量の4割が規格外品で占められ、これを使うのはいまで言うSDGs(持続可能な開発目標)にも通じます」。また、サツマイモを原料とする醸造酒自体が世界的にも珍しい。「鹿児島の芋焼酎があるではないか」と指摘する向きはいるだろうが、焼酎は蒸溜酒である。

 現在も、麦芽を主原料とする商品ラインの中に、サツマイモ原料の商品も「紅赤-Beniaka-」として販売している。

 このシリーズで取り上げた伊勢角屋麦酒(三重県伊勢市)では、地元である伊勢の森から採取した酵母を使ったビール「ヒメホワイト」を商品化した。協同商事は、原材料から地元地域にこだわっている形だ。

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