2024年6月15日(土)

Wedge REPORT

2020年10月1日

クラフトビールは「愛される」商品となるのが必須

 さて、日本のモノづくりが、リチウムイオン電池や半導体のDRAM、カラーテレビのパネルに使われる液晶や有機ELといった先端分野で、かつては一世を風靡しながらも劣勢に転じたことは、以前ここでも記した(『キリンがクラフトビールにかける思いと狙い』3頁)。カラーテレビは日本製としながらも、心臓部品の有機ELは韓国製が採用されている。

 さらに、コロナ禍の今年7月、トヨタがEV(電気自動車)専業の米テスラに時価総額で抜かれてしまう。9月28日時点でも、テスラの40.04兆円に対しトヨタは23.42兆円だ。リチウムイオン電池技術で先行し2010年にはEV量産を始めた日産にいたっては、社内の混乱が災いし1.58兆円にとどまる。

 生産台数(2019年)では、トヨタが905.3万台、日産495.8万台に対し、テスラは36.5万台と大きな差があるのにだ。

「テスラのEVは走るスマホ。CASE(ネット接続、自動運転、シェアリング、電動化)への対応が既存の自動車とは段違い。将来への期待値が株価に反映した」(シリコンバレー在住のテスラ・モデルXユーザー)。「ESG(環境・社会・企業統治)投資の時流にテスラは乗った。ただしバブルの側面はある」(日本の自動車メーカー幹部)など、いくつもの要因はある。さらに 「コロナ禍で先進国は国債を刷りまくる超積極的な財政出動に打って出ていて、資金の多くが米国の株式市場に専ら流れ込んでいる。これが、テスラ株の異常な高騰の背景。テスラの一日の取引高が東証全体の3倍になるなどおかしい」(テスラの個人株主)。見方はいくつも分かれる。

 では、クルマを商品として捉えたとき、どんな違いがあるのか。それを見ると、クラフトビールの商品意義がわかってくる。

 「愛車というように、車には愛がつく」と指摘する経営者はいる。もっと正確に申せば、車の中には「愛車」もある一方、「必要とされる車」もある、といえるのではないか。

 ケビン・メイニー著『トレードオフ』には、「消費者は絶えず上質さと手軽さのどちらか一方を選び取っている」とある。同書によれば、上質であるとは「愛されること」、手軽であるとは「必要とされる」と同義である、としている。手軽は大量生産され安価、上質は少量生産で希少価値があり高価だ。

 名店のプリンは上質であり、コンビニのプリンは手軽。熱烈なファンをもつフェアレディーZや”スバリスト”を抱えるスバル車は愛され、軽自動車や商用車は必要とされる。もっとも、同じ軽でもスズキ・ジムニーは別。そのブランド力から、ニッチな分野で圧倒的な上質さのポジションにある。

 テスラは当初、米国のプリウスユーザーの多くがポルシェも所有している点に目をつけた。「環境への優しさを連想させる極上のスポーツカーをつくろう」(同書)として、10万9000ドルの「テスラ・ロードスター」を08年に発売。静止状態から3.9秒で時速97キロに静粛なまま達するなど、モーター走行ならではの異次元の走りを実現させる。その後、高級セダンの「モデルS」などを経て、普及タイプの「モデル3」を発売したのは17年。つまり、上質から入り、手軽へと広げた。

 日産は、プリウスと同じCセグメント・セダンのEV「リーフ」を2010年に発売する。価格はロードスターやモデルSの半分以下。あくまで移動手段としてのEVであり、ガソリン車から乗り換えても”違和感”のない走りとした。富裕層だけではなく、プリウスユーザーをはじめとする環境意識が高いと思われる幅広い層を狙う。大量生産は前提であり、万人受けする手軽から入ったのだ。商品戦略はベンチャーだったテスラとは違った。

 ちなみに、「愛されてなおかつ必要な存在になるのは、(中略)限りなく不可能に近い」と同書。商品でもサービスでも、どちらかに徹底する必要がある。経営が揺れ続ける日産だが、軽のEVの商品化などで手軽を追求していく戦略は求められる。また、自動車産業に従事する550万人の雇用を支えているのは量産される「必要とされる車」であり、「愛される車」の貢献は少ない。

 ビールにおいては、少量で高価なクラフトビールは愛されることを目指さなければならない。対極の手軽は、安価な第3のビールとなる。それだけに、クラフトビールには他とは決定的に違う個性や特徴は求められる。


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