2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2020年1月16日

 こんな大手であるキリンの動きに対し、クラフトビールメーカー幹部は、次のような指摘をする。「キリンがクラフトビールに15年に参入した意味は、本当に大きい。使える資金は豊富で、情報発信力、宣伝力は、中小の我々にはできないこと。15年はクラフトビールブームに陰りが見え始めた頃だっただけに、業界はもう一段盛り上げられた。ただし、参入企業数は増え続けているため、やがて淘汰の時代を迎える」

 いまや400社を超えているクラフトビールメーカーだが、大半は中小。国の「租税特別措置法」でのビールにおいて、年間の課税移出数量(出荷量)が1000キロリットル以下なら、酒税は15%軽減される(1000キロリットル超1300キロリットル以下なら7.5%軽減。また発泡酒は1000キロリットル以下で20%軽減など)。軽減の適用を受けていない、つまり大手4社と同じ税率が適用されるのは、「数社しかない。国の軽減措置があるため参入は増えているものの、自立できないクラフトビールメーカーを生んでいる側面はあります」(同)。

 メーカーの協賛金で自立が難しい外食、国の保護政策で自立できないクラフトビールメーカーに挟まれている形のキリンだが、その存在と影響度は大きさを増す。キリンが新しい市場をいかにつくっていくかは、外食やメーカーが自立していくポイントとなっていく。国産ホップの生産者までキリンは巻き込んでいるため、原材料まで含めたサプライチェーン全体の”有り様”そのものに、キリンは影響を与えていく。

単品大量から多品種少量のモノ作りへ

 もっとも、クラフトビールによるゲームチェンジは、業務用ビールの強化を目指すだけではない。

 従来型のモノづくりを変えていこう、という意思も込められていた。つまりは、装置産業としての単品大量生産方式から、職人技を盛り込んだ多品種少量生産の拡大だ。

 12年の社長プレゼンで和田は、「(少子高齢化と人口減少に直面するなか)メーカーが大量生産をする時代は終わり、新しいコミュニティーを介しメーカーと消費者が接する時代を迎えました」と訴えていた。

 ビール類市場は1987年にアサヒが発売した「スーパードライ」がヒットしたことで、最盛期となる94年までの8年間で約5割も拡大した。86年の497万キロリットル(販売量ベース・オリオンビール含まず)に対し、94年は726万キロリットル(出荷量ベース・オリオン含む)と、229キロリットルも増えたのだ。しかし、95年から19年までの25年間でこの”増分”は消えていった。18年が同2.5%減の498.7万キロリットルで14年連続して前年を割り込んだ。出荷量の公表をやめた19年も、販売量ベースだが15年連続で前年を下回った。

 酒類に占めるビール類の構成比は、90年代は7割あったのが、現在は6割を切った水準。少子高齢化と人口減少、若者のビール離れ、さらには缶チューハイやワイン、ハイボールとの競合などから、ビール類の市場は縮小を続けているのだ。

 「この先、どこまで(ビール類市場が)縮小していくのか予想は難しい」(塩澤賢一アサヒビール社長)と言う。

 ビール類に限らず、自動車でも国内では長期的に販売減が続いていく。このため、販売系列の統合を進める一方、カーシェアリングなど従来型の販売とは違う新しい形態が登場しつつある。

 さらに申せば、先端分野の”モノづくり”において、日本はここのところ劣勢である。

 半導体のDRAM、液晶、リチウムイオン電池(LIB)、有機EL、フラッシュメモリーと、世界首位の座を韓国や中国などに抜かれてしまっている。このうちLIB、有機EL、フラッシュメモリーは、日本発の技術なのに。技術が進み巨額の設備投資が必要となったとき、「日本企業は踏み切れず、投資競争で負けた」(自動車メーカー元首脳)。

 和田はかつて、「20世紀になって本格化した『規格品を大量生産する構造』を、私はビールから変えたい。ビールの場合なら、ビールの文化を変えるということなのです」と話したことがある。

 日本が優位であり土俵でもあるのは、クラフト的なモノづくりだ。世界から高い評価を得ているジャパニーズ・ウイスキーは、豊富な経験と匠の技をもつブレンダーにより支えられている。同じく日本ワインにしても、畑作りからぶどう栽培、醸造まで、それぞれを担うクラフトマン(職人)たちが奮闘。最終製品を作り上げている。クラフトビールも一緒だろう。

 島村は言う。「消費者調査をすると、クラフトビールへの認知度は90%。ところが、飲用経験があるのは4割ほど。ギャップは大きいのです。このためSNSやネット通販の地道な活用を継続させ、幅広く消費者を巻き込んでいきたい。醸造家の意思を発信させ、商品の魅力を訴えながら」

  
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