Wedge REPORT

2020年1月16日

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永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

酒税改正で練られた戦略

 次に、どうしてゲームチェンジに迫られたのか。

 一つは酒税改正だ。財務省が、ビール、発泡酒、第3のビールと3層あるビール類の税額の格差を将来的に統一していく方針を打ち出したのは05年末。06年度酒税改正でだった。しかし、その後首相が毎年交代したり、政権交代などで政治は迷走。具体的なスケジュールや統一される税額が決まったのは16年末となる。

 20年10月、23年10月、26年10月と3段階で統一されていく。

 現在、350ミリリットル当たりの税額はビール77円、発泡酒46円99銭、第3のビールは28円。2020年10月、ビールは7円減税され70円に、第3のビールは9円80銭増税されて37円80銭に。続いて23年10月にビールが6円65銭減税、第3のビールが9円19銭増税される。この段階で第3のビールという区分はなくなり、ビールと発泡酒だけになる。

 そして26年10月には発泡酒も7円26銭増税され、54円25銭で統一されるのだ。つまりは、ビールが下がって第3のビールが上がる。減税分は小売価格にも反映されるため、「ビールの強い会社が優位になる。ただし、26年に税額が統一されても、原材料の工夫などで価格の安い商品は残る」(高島英也サッポロビール社長)というのは、業界の一致した見方だ。

 磯崎は12年の社長就任時から、「一番搾り」を中心とするビール強化を決めていた。税額統一を見越してである。

 キリンは第3のビールと発泡酒に強く、ビールに弱い。別の表現を使えば、家庭用に強く、飲食店向けの業務用に弱い。

 ビール類市場は、約5割がビールで、残りは発泡酒と第3のビール。一方、ビール類は「家庭用が7割、業務用が3割という構成」(ビールメーカー幹部)。業務用のほとんどすべてはビールが占める。なので、ビール類で半分を占めるビールに限ると、その6割は業務用となる。

 19年のビール類の年間販売数量を比較すると、アサヒビールが前年比3.5%減の1億4196万箱(1箱は大瓶20本=12.66リットル)に対し、キリンは同0.3%増の1億3550万箱と646万箱の差だ。ところが、ビールだけを比べるとアサヒが同5.5%減の8839万箱に対し、キリンは同4.9%減の4430万箱と、ほぼ半分の規模となる。「缶の一番搾りは、1370万箱で前年比3%伸ばした」(キリン)とするが、缶はそもそも家庭用だ。

 ビール類のビールにおいて、小売価格が下がり需要の拡大が見込める家庭用を取り込みながらも、業務用市場をいかにこじ開けていくかはキリンの課題である。

消費増税でビールが商戦の中心に

「クラフトビール事業に、2020年は注力します。ビールの価値を変えていく」

 2020年年明け、布施孝之キリンビール社長は20年の事業方針発表で話した。

 特に、第1回でも記した簡易型ディスペンサー「タップマルシェ」の展開を加速させていく方針を打ち出す。19年末に1万3000軒の飲食店に導入していたが、20年末までに新たに6000軒増やしていく。

 4種類のクラフトビールを提供でき、キリン以外のクラフトビールメーカー13社の商品も扱っているタップマルシェ。飲食店を開拓していくための、キリンにとっての戦略ツールなのは間違いない。

 実は、19年10月の消費増税までは安価な第3のビールが商戦の中心だった。が、増税後は、ビールが主戦場となっている。20年10月からの酒税改正を控え、早くも商戦は激化していて問題も発生している。「業務用の現場では、協賛金や出資金の名目で、メーカーから料飲店に大きなお金が流れ、商戦が荒れている」(飲食コンサルタント)、「協賛金があるから、自立できない外食企業がある」(飲食店経営者)と自嘲気味に話す。業務用の営業経験を持つビールメーカー首脳は「金でひっくり返した店は、金でひっくり返される」と指摘するが、商戦が激化すると水面下でお金が乱れ飛ぶ。

 これに対し、タップマルシェのクラフトビールならば”お金の戦い”に巻き込まれることは少ないはず。高価格の価値軸で勝負するためである。

 布施は「クラフトビール事業の黒字化は、まだ考えてません。(クラフトビール)市場の成長性は高く、投資の必要があるため」と語る。海外を中心とするM&A、国内での新店舗出店を示唆する。

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