2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2021年3月19日

 超低金利の常態化が、収益力低下を通じて地域銀行の体力を奪いつつある。そうしたなか、2020年9月の自民党総裁選における「地銀の数が多すぎる」旨の菅義偉官房長官(当時)発言が注目を集め、地銀再編を巡る議論が一気に盛り上がりを見せている。

これからの銀行には傘をさす(融資)だけではなく、事業を共に興すなどの伴走が求められる (CHUANCHAI PUNDEJ/EYEEM/GETTYIMAGES)

 地域経済を支える地銀の重要性は、新型コロナウイルス感染拡大における緊急融資の状況を見ても明らかである。地銀の持続可能性は地方にとって無視できない問題だ。では、経営統合を進めれば、果たして地銀の持続可能性は担保されるのか? 再編を地銀生き残りの解とするような矮小化された議論も少なくないが、再編で厳しい経営環境を乗り切れるほど、問題は簡単ではない。

〝原点回帰バンキング〟が
地域共存へ導く

 銀行の歴史的遷移を鳥瞰すると、1980年代に本格化する自由化から始まり自然淘汰を経験、再編や破綻により銀行数は激減した。そして現在、地銀は収益環境の冷え込みばかりでなくデジタルテクノロジーの波に直面、第二の自然淘汰の時代を迎えつつある。

 しかし、フィンテックを駆使した業態が、伝統的銀行に取って代わるような単純な図式は想定していない。「銀行が不要になる」のではなく、「不要な銀行が炙(あぶ)り出される」のが自然淘汰の本質である。適者生存の条件を考えるためには、地銀の原点を見直す必要がある。

 地銀は拠りどころとなる市場があり、その経済圏における共存共栄こそがミッションである。これを果たすため、「目利き力」に代表される銀行固有の情報生産機能の発揮が不可欠である。近年では資金に余裕がある人と借り入れニーズがある人をマッチングさせるフィンテック企業が話題に上るが、お金を貸せる相手かどうかの判断は簡単ではない。

 借り手は自分の状況を把握しているが貸し手は分からない、これを情報の非対称性という。情報の非対称性をプロの「目利き力」で削減する能力が情報生産機能の中核である。この機能をもって地域での共栄を図ることこそが地銀の役どころであり、少子高齢化が進んでもイノベーションが進展しても変わらない。

 しかし、この視点から逸脱した経営が目立つ。地元におけるビジネスに飽き足らず、隣県や大都市部に機会を求め広域展開、進出先では金利引き下げによる貸し出し奪取に忙しい。当然のことながら、土地勘のないエリアでの収益性は相対的に低いばかりでなく、ほかの地銀も同様に戦略展開しているため消耗戦に陥っている。

 貸し出しの安全運転も問題だ。これには19年12月廃止された金融検査マニュアルの罪が深い。同マニュアルは金融危機のなか銀行の隠れ不良債権を炙り出すことを企図して策定されたため、これに基づく金融検査では検査官は銀行が「正常債権」とした貸し出しをバサバサと「不良債権」のカテゴリーに落とすなど、厳しさを極めた。マニュアル導入は、銀行の貸し出し行動の保守化を促した。


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