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2021年3月19日

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野崎浩成 ( のざき・ひろなり)

東洋大学教授

1986年慶應義塾大学経済学部卒業、91年エール大学経営大学院修了。シティグループ証券時代に日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。

「地域の深掘り」で
価値を発掘する

 こうした姿を踏まえ、原点回帰こそが適者生存の鍵を握る。自らが拠ってたつ地域を再定義したうえで、情報生産機能を駆使して地域の深掘りをすることが何より重要である。最大の難関は情報生産機能の回復である。その背景は現場力の欠如である。取引先の社長や経理部長など銀行取引の当事者ばかりでなく、工場など金融とは無縁の現場まで足を運び、無駄と思われる話もしながら非財務情報を吸い上げること、隠れたニーズを見つけること、こうしたニーズを地域内のほかの取引先に結びつけること、それらすべてが現場力であり、付加価値の源泉である。

 金融危機前は、先輩行員と帯同訪問をすることで話術から分析のポイントなどを盗み取る「伝統芸能の伝承」ができたが、危機における新卒採用減などにより伝承の「糸」が途絶えてしまったようだ。これを修復することこそが急務である。詳しくは後述するが、例えば、現場の行員に一定の権限を与え、貸し倒れなどの失敗をある程度許容しながら、トライアル&エラーで経験値を積み上げることが必要だろう。

 現場力を駆使した地域の深掘りは、地域の課題を解消するきっかけをもたらす。地方では、後継者の不在、地域における本源的需要の減少、財務的あるいは戦略的問題から不良債権化した企業の事業再生など、数多くの課題が山積している。地銀はこうした課題を正しく受け止めてはいるものの、対応には苦慮している場合が多い。ここでも地域への強いコミットメントと現場力が鍵を握る。

 地域の「深掘り」により、経常的金融取引では浮上しない機会を探知することも可能となる。深掘り情報の集積は、事業承継や再生の思わぬきっかけとなるインプットを供給することがあるはずだ。また、こうした成功事例の積み重ねが「知の集積」としての新たな付加価値を生み出す。かつては、大企業の敷地内で無名の研究者がプレハブを借りて新技術の研究に打ち込んでいる噂を銀行支店長が聞きつけて、現在の超一流企業にまで育て上げた、というような逸話もあった。

 ここまでは「原点回帰」を地銀の適者生存の鍵として述べてきたが、旧来型のビジネスモデルの見直しも必要である。伝統的産業を支えていくばかりでは、地域経済の活性化は果たせない。地域における新しいビジネスの芽を育てることが不可欠である。幸いなことに、情報技術革新は着想から事業開始までの時間軸を縮めるとともに、都市部か地方かを隔てることなく起業が可能となる環境を提供している。

 しかし、ビジネスの萌芽を阻む3つの壁がある。起業家のやる気を殺ぐ代表者保証、銀行を躊躇させる負債性資金提供上の問題、そして貸し出し形態の技術的問題である。

 中小事業者向けの貸し出しを行う場合、借入返済への経営者の真摯な姿勢を確保することなどを狙いとして個人保証を要請する。万が一にも事業が失敗した場合は、事業主個人の破産に直結する。夢を携えた起業家がビジネスの立ち上げを行う際、この現実に直面する。

 貸し出しという負債性資金の特性も障害となる。銀行は業績も担保もない相手に資金を提供することを得意としない。過去の実績や財務状況を分析することが貸し出し審査の基本である。新しい技術などの評価の知見も希薄である。加えて、貸し出しのリスク・リターンの特性を考えると、事業が失敗すれば貸し倒れとなる一方、事業が大成功しても返済される元利金が増えるわけでもない。このため、銀行が果敢にリスクを取る動機付けが希薄となる。

 これらの問題に立ち向かうことこそが、地域の共存共栄をさらに加速させる。そのためには、仕組みづくりと覚悟が求められる。

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