借り手にとっても、ドライかつディール・バイ・ディールで最も低コストの資金調達を行うという分かりやすい行動となるので、銀行との取引関係は考慮されず、企業としての社債発行、プロジェクトの証券化などの選択肢のなかからコストや経営リスクの比較考量で手法が決められる。
しかしわが国では、コロナ禍で非効率性は必要悪であることがはっきりした。過剰と非難されたキャッシュが資金ショートから企業を守ったほか、緊密な銀行との関係から緊急融資をタイムリーに受けられて急場をしのいだ企業は、中小零細から超大企業に至るまで数多い。
顧客と銀行とのリレーションシップ・バンキング(地域密着型金融)は地銀のみにある概念ではない。普段からの不断の関係性の緊密化は、大企業であってもリスク管理上のメリットになる。プロジェクトごとに与信判断を行うのでなく、経常的に定量・定性的企業情報を獲得することにより、銀行は緊急事態における安全弁の役割を果たすことになる。
逸話としては、みずほフィナンシャルグループと英ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)の関係性がある。2010年にBPがメキシコ湾で石油流出事故を起こし経営危機に瀕した際、みずほは短時間で融資による支援を決め、その後の両社の関係に大きな影響をもたらした。欧米型のドライな関係性ではなく、実は日本のウエットな関係性が評価されることもあるのだ。
世界的模範となりうる
顧客との取引深耕
株式と負債のバランスの取れた資本主義こそが、アクセルとブレーキが適正に働く前提である。リーマン・ショックは、グローバルな金融当局が銀行の商業銀行への原点回帰を強調するきっかけを生んだ。格差拡大や地球環境危機は、資本家以外のステークホルダーへの配慮を促す圧力となっている。
その意味で、日本の銀行が得意とする顧客との取引深耕をベースとした金融モデルは、世界的に模範となる可能性を秘めている。短期的利益を求めず、長期安定的な関係を重視し、いざというときの安全弁となり、近年では地球環境等への事業の影響を踏まえて与信判断を行うことで、企業のESG(社会的責任投資)への意識付けを行う主体となりうる。歴史は繰り返すというが、まさに日本的銀行ガバナンスを世界に示す時代を迎えたのかもしれない。