2024年4月28日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年9月13日

 「日本に関する理性的な議論とは何か。言論統制によって黙らせることではない。共産党は言論を規制して情報を透明化せず、国家ではなく党を愛する『愛国教育』を行ってきたため、(一方的な反日が広がり)中日関係は悪くなった」

 つまり理性的な議論を促すためには、過激な問題言論が出たら、他の議論参加者がそれを訂正するプラットフォームが必要なのである。それが関心事項に関して自由な意見交換ができる「微博」というわけである。

「親日=漢奸」ではなくなった

 8月27日、丹羽大使の公用車が襲撃され、日の丸が奪われた事件でも、偏った愛国教育を受けた若い世代の利用者が多い大手ポータルサイト「騰訊網」のネット調査では82%が「日の丸略奪」を支持した。しかし同じ「騰訊」の微博では「こんな狭隘な国家主義が起こると、中国人はかつての日本軍国主義の道を歩むのではないか」という理性的な意見も見られた。

 かつて親日的な発言を漏らせば、「漢奸(売国奴)」とののしられた。しかし今や、日本に対して理性的な発言を行っても、微博でそれを擁護してくれる「集団」が生まれた。その結果、「親日=漢奸」として攻撃されることはなくなりつつあると言えよう。

「国家」行為、強硬姿勢に転じる

 しかしいくら政府は冷静に対応してきたと言えども、国内の民意に神経を尖らせなければいけないのは日中両国の首脳にとって変わらない。

 転換点となったのは、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたウラジオストクで9月9日、胡錦濤国家主席が野田佳彦首相と立ち話し、国有化に「断固反対する」と述べ、「誤った決定」の撤回を直接求めたことだった。中国側としても、いくら野田首相に抗議しても、日本政府の国有化方針に変わりはないことを熟知しているが、微博上では胡主席の発言に「もっと強硬に」という失望が多く聞かれた。

 胡主席が反発した翌日に野田首相は国有化を決定。その日程はもともと決まっていたし、中国側も知っていたはずだ。しかし形としては最高指導者のメンツが潰され、さらに対日弱腰を批判する民意が、翌日の国有化決定に対する強硬姿勢につながった。

 国有化決定までの日中関係を混乱させた主役は「民間」だった。石原慎太郎知事の計画も、香港活動家の尖閣上陸も、反日デモも、丹羽大使襲撃もみな国家・政府と関係ないところで起こった。

 しかし国有化はまさに「国家」の行為である。日本の国有化決定後、中国政府は強硬な対抗措置を示唆しながらも、日本側の柔軟化を待っているように見える。日中両国政府の水面下の交渉で緊張打開策が見いだせるか、が当面の焦点となりそうだ。

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