2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年9月13日

 中国外務省当局者は最近、「環球時報は中国政府の見解を代弁しているわけではない」と繰り返すが、政府は環球時報だけでなく、視聴率優先の商業主義に走る中央電視台についても放任し続けた。反日問題に一定の規制を加えたかつての報道規制から考えると「転換点」と言えるものだった。

反日デモ沈静化に公安のルール

 反日デモに関しても同じで、もはや完全に押え込もうとは考えていない。どうすれば管理できるかに重点を置いており、公安当局に一定の内部ルールが存在している実情が今回、はっきりと見てとれた。

 25都市で一斉に多発した19日の反日デモは、それぞれ各都市の保釣活動家らが微博で情報を収集しながら、ネット上で横並び式に呼び掛けたものだが、現地の公安局はデモを組織した中心人物と連絡を取っていた。これは05年や10年の反日デモでも見られた光景だが、今回、公安の対応として以前と違ったのはデモを容認するものの、デモが拡大・過激化する前に、参加者に匹敵する警官隊を投入し、デモ隊を巧妙に分散させたことだった。

 多くの都市でデモは午前9時か10時に始まり、まず繁華街を行進させて「ガス抜き」を図り、昼ごろになると解散に追い込む、という手法を駆使。05年に北京で起こった1万人反日デモはこれに失敗し、コントロールできなくなったデモ隊は警官の意図しない方向に曲がり、日本大使館に向かい、投石や破壊行為など暴徒化した、という苦い教訓があるからだ。

 さらに政治的に敏感な北京、上海の大都市では、街を練り歩く反日デモ行進を決して認めないようにした。管理しやすく、ガス抜き効果の大きい日本の大使館・領事館前で人数を絞って、一気にではなく細切れに抗議活動を容認するという手法を徹底させた。北京の日本大使館前では8月15日以降、抗議行動が続いたが、若者たちが大量の警官の前で入り代わり立ち代わり大使館前に来ては10分ほど騒いで帰る、という光景が繰り返された。

怒りの対象は「日本」より「公安」

 この公安当局の「維穏」(安定維持)手法は、土地問題や環境汚染、幹部腐敗などに抗議し、地方都市で多発する暴動やデモの際に導入している柔軟な対応と似ている。つい最近まで暴力的にデモを弾圧してきた公安当局は、「これでは怒りと憎しみの連鎖」を生むだけとして暴動・デモに対してまずは「容認」、そして「ガス抜き」、最後は拡大・暴徒化する前に「分断」させるという方向に転換している。「反日」と「反政府」で沈静化の手法はほぼ一緒である。

 しかも反日デモの場合、参加者の怒りの矛先はまずは「日本」であり、その点で取り締まる側の公安当局とはなから衝突する可能性は低い。だが「若者は米国に不満を持てば反米デモ、日本に抗議する際には反日デモ。結局、就職難や当局の横暴、格差などに不満を持っているから、外国にはけ口を求めているわけであり、反日デモの本質は、反政府にある」と言い切るのは北京の人権派弁護士だ。

 19日の広東省深圳のデモではホンダの公安車両が破壊された。壊した若者は「日本」に怒りを込めたのか、「公安」に怒りをぶつけたのか。複数の中国の知識人は「公安だ」と言い切った。


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