一方、日本側では10年9月、尖閣沖の漁船衝突事故で中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕し、拘置が長引いたことが日中関係の緊張につながったという失敗がなお記憶に新しい。そのため今回は強制送還を前提に入国管理法違反容疑に事態を収める必要があった。海保と保釣船の接触は避け、上陸した活動家を沖縄県警などの警官が待ち構えて逮捕するという手際の良さを見せた。これは事前に日中双方が冷静に連絡を取り合った結果と言えた。
国営テレビ、洪水のような愛国報道
8月15日に尖閣諸島に上陸した香港の保釣活動家は逮捕後、17日に強制送還となった。そして18日には西安(陝西省)を皮切りに、19日には全国25都市以上で反日デモが一斉に展開された。
筆者は15日夜、北京で最初、香港の鳳凰衛視(フェニックステレビ)を見ていた。逮捕された中に同テレビの記者もいたため鳳凰衛視が大々的に報道するのは理解できた。しかし次に中国国営テレビ・中央電視台にチャンネルを切り替えたところ、「わが釣魚島に上陸」と、鳳凰衛視以上の愛国報道に沸き返っているのを見て正直、驚きを隠せなかった。
社会の不安定化を助長する反日デモに関しては、さすがに中国の新聞・テレビは一切報じず、外国向けの新華社通信英文版だけが事実関係を報じるにすぎなかった。しかし若者らの反日デモに対する公安当局の対応を取材したところ、尖閣上陸時に中央電視台が展開した洪水のような愛国報道と同じような「制御できない何か」を感じた。
「もはやコントロールできない」
それは複数の中国政府当局者が口にした「もはや反日も、愛国もコントロールできない」という現実である。明らかに2005年や10年の時と違う政府当局の「開き直り」を感じざるを得なかった。
今や中国は、4億人以上が利用するミニブログ「微博」(中国版ツイッター)社会だ。例えば、19日に反日デモが展開された25都市。デモ参加者は我先に微博に写真付きでつぶやき、リアルタイムで反日デモが伝わった。デモ呼び掛けについても微博で転送されれば、無限に広がり、完全削除は困難だ。
「かつてはコントロールできたが、今となってはインターネットを切断する以外にコントロールは不可能だ」。前出の当局者はお手上げの状況だ。
2005年、10年と比べ、中国は日本を抜いて世界第2の経済大国になり、大国意識と主権意識、そして愛国心の裏返しの反日感情がどんどん高まった。
反日・反米など民族的論調で知られる共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、「釣魚島は海外華人を含めた全中国人の精神的中心となった」(8月18日付)「世界華人の保釣意識は覚醒から高揚に向かった」(20日付)と煽り続けた。