柳澤管楽器はサクソフォーン生産の専業でアルト、テナー、ソプラノ、バリトンの4種約650本を毎月出荷している。そのうち約8割は海外向けで、世界31カ国に代理店を持つ。値段は20万円台から160万円台まであり、売上は年間約14億円。生産は完全受注制で納品まで半年かかる。1980年代後半から90年代前半にかけてのピーク時から国内市場は縮小傾向にあるものの、海外での販売を増やし、売上は微増を続けている。
実は、日本で管楽器製造を最初にはじめたのは、柳澤氏の祖父徳太郎氏だ。1893年(明治26年)、浅草で飾り職人をしていた徳太郎氏は、手先の器用さをかわれて、板橋にあった陸軍兵器廠から軍楽隊で使用される楽器の修理を手掛け、製造技術を身に付けた1907年、東京で万国博覧会が開かれたときにバス、バリトン、トロンボーンなどの管楽器を国産品として出品した。
徳太郎氏は終戦直前の45年4月に亡くなり、満洲から復員した柳澤氏の父親である孝信氏が、サクソフォーンの製造をはじめたのが50年。初期の頃は、「値段が安いわりに壊れない」ということで練習用として出荷を伸ばした。質を高めるべく試行錯誤を続け、海外メーカーと肩を並べられるようになったのは、3つ目のモデルである「900シリーズ」を89年に出してから。ここから輸出も増やし、現在もこのシリーズを基本に改良を重ねている。
柳澤氏は「上手に手が付いている」という父の言葉を今も大事にしている。「手が付く」つまりきちんと手がかけられているということで、価格の高低にかかわらず手を抜かずにしっかり作りこむ。だからこそ、壊れにくい製品を作ることができた。
嗜好品である楽器の世界では、手間を省いて安くする以上に、手間をかけて価値を高めることのほうが評価される。この辺りが手間を惜しまない日本の楽器製品が世界から評価される所以といえる。
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