2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月3日

 中国海警法が2月1日に施行された。日本国内からは、海警法は国際法に違反し、国際秩序を揺るがし、日本の尖閣諸島防衛に重大な影響を及ぼすとして強い警鐘が鳴らされている。海警法の日本および国際社会に突きつける挑戦は何で、日本と国際社会は、この問題に如何に対応すべきなのであろうか。

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国際法上の問題点

海警法には多くの問題がある。ここでは、国際法上の問題について、特に2点を指摘しておきたい。

 第一に、「管轄海域」の問題がある。草案において「管轄海域」は「領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚及び中国が管轄するその他の海域」と定義されていたが、そこの説明は省かれ単に「管轄海域」となった(第3条)。「中国が管轄するその他の海域」に議論があり無定義としたのであろうが、適用範囲が不明確な法律などお目にかかったことがない。そこに武器の使用を含む、細かな規定を作ってしまったのである。近隣諸国が目をむくのも当然であろう。

 第二に、「管轄海域」において、外国軍艦等に対する強制措置をとることができる旨の規定(第21条)も物議をかもしている。国連海洋法条約は、沿岸国は領海において無害でない航行を防止するために「必要な措置」をとることができると規定している(条約第25条1項)。しかし、それ以外の海域に関する類似の関連規定は存在しない。最も管轄権の強い領海においてさえも外国軍艦に対し行使できるのは退去要請までである(同第30条)。軍艦は公海上では他国の管轄権から完全に免除されている(条約第95条)。管轄権を主張する国が、公海以外の海域において外国軍艦や公船に対し、どこまで行動できるのか、どのような管轄権を行使できるのか、中国海警法の規定は、われわれの国際法解釈から逸脱している。

中国の新たな圧力

 中国と海上領有権の問題をかかえる国々は、海警法の施行とともに、中国の新たな圧力に直面することになる。必要と判断すれば法律があろうとなかろうと実行するのが中国だが、中国共産党は「法治」の強化を打ち出し、法律により制度を構築し、法令通りに動く官僚機構をつくり上げようとしている。海警法の成立は、海上法執行機関の一元化と海上国防の切れ目ない一体化に向けて大きく前進した。海警総隊が法律通りに動けば、係争中の近隣諸国の海上領有権の主張を実力により否定し、自国の主張を相手国に押し付ける結果となる。武器使用のハードルは下がり、しかもその背後には中国海軍が有機的に連携し控えている。国際社会の裁判で黒白をつける仕組みは脆弱であり、既成事実が依然としてものを言う。中国が、それを狙ってくる可能性は高い。

日本および国際社会はいかに対応すべきか

 日本と国際社会は、海警法に代表される中国の行動の問題点を指摘し、現行国際法秩序に及ぼすマイナスの影響について警鐘を鳴らす必要がある。しかし、その努力とともに、国際法の形成と解釈にとり、現場での力比べの結果が大きな意味を持つことを十分自覚した対応をする必要がある。国際法に書いてあることをわれわれの解釈に従い、具体的な行動に移し、それらを積み重ねていくことにより、初めてわれわれの言う「法の支配」の世界が実現する。米国が航行の自由作戦を実施し、英独仏が艦船を東アジアに回遊させるのは、国際法の解釈を中国に有利なように変更させないという、海洋先進国としての意思を示す行動である。

 尖閣諸島に関して言えば、守り抜く意思を、具体的な能力の強化によって示す必要がある。具体的には、海上保安庁の能力向上、海上自衛隊との連携強化、米軍参加のシナリオに基づく合同演習である。

 米国が領有権問題に関する中立の立場を変更して、南シナ海における中国の立場(九段線理論に基づく南シナ海全域の領有主張)を否定し、フィリピンやベトナムに対する支援を強めたことは朗報と言える。中国との力比べは長く続く。米国は、台湾海峡や第一列島線の中国側海域における軍事バランスが中国に傾き過ぎていると判断して、その是正に動いている。

  
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