2月5日、南米のガイアナは、台湾との間で結んだ同国への台湾の代表機関の設置に関する協定を、締結後24時間も経たないうちに一方的に破棄した。蔡英文政権は「努力を重ねたが、決定を変えることはできなかった」として「深い遺憾の意」を表した。
協定締結から破棄までをめぐる目まぐるしい経緯については、公表されていない不明の点もあるが、背後において中国の脅迫・圧力があり、ガイアナとしてこのような挙に出たに違いない。
台湾の英字紙Taipei Timesの2月7日付け社説‘Taiwan cannot rely only on the US’は、ガイアナの台湾代表機関の開設破棄が、台湾を侮辱しただけではなく、米バイデン政権への「平手打ち」となった、と述べているが、その通りだろう。この台湾・ガイアナ間の代表機関開設については、米国政府はもともと祝意を表していた、と言われている。
ガイアナが態度を豹変した大きな理由としては、中国がガイアナに約束していたワクチン提供などの医療支援や財政支援の停止などを挙げることが出来そうだ。
今回のガイアナ・台湾間の代表機関設置問題は、ガイアナが外交関係を中華人民共和国から台湾(中華民国)に切り替えるというものではなく、あくまでも正規の外交関係とは別に、民間レベルにおいて、台湾の代表所を設置するというものであった。それは、ちょうど東京にある「台北経済文化代表処」のようなものである。
中国としては、米国の裏庭ともよばれる南米の小国ガイアナ(人口70万人)が台湾に接近することに対し、バイデン新政権が如何なる対応を示すかについて、試してみるという意図があるのではないかと想像される。
上記Taipei Times社説は、「トランプ政権の下で、米、中、台湾の三者関係は緊張していたが、多国間主義を重視するバイデン政権の下では、その緊張が少しゆるやかになったように見える」と指摘し、控えめではあるが、バイデン政権が「対中融和路線」に回帰するのではないかとの警戒感を表している。そして、同社説は「台湾は外交関係を米国のみに頼ることは出来ない」と結論付けている。
ブリンケン国務長官は、中国の楊潔チ政治局員(中国の外交担当トップ)と電話会談した際に、台湾海峡を含むインド太平洋地域の安定に対する米国の懸念を強調し、「台湾を含むインド太平洋の安定を脅かす行為には、米国としては同盟国と連携しながら中国に責任を負わせる」と述べたと報道されている。今後の注目点は、レトリックではなく、個々の具体的ケースをめぐり実態として米国がどのように中国に対し厳しい姿勢で行動するのか、そして、それがトランプ時代と如何に変わるのか、という点であろう。
インド太平洋地域においては、米国の政権交代の直後に、ミヤンマーにおけるクーデター、台湾と外交関係をもつパラオが「太平洋諸島フォーラム」から脱退したことなど、バイデン政権が如何に行動するか、が試されるような事態が頻発している。インド太平洋戦略全体についても、レトリックではなく具体的な行動が問われていると言えよう。
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