2024年4月19日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年2月10日

 今回のテーマは、「バイデンの内政と外交」です。バイデン政権が発足してから約20日が経過しましたが、内政と外交の特徴が明確になってきました。ジョー・バイデン米大統領は一体、どのような視点から追加経済対策案を打ち出しているのでしょうか。

 また、トランプ外交との類似点と相違点はどこにあるのでしょうか。本稿ではバイデン氏の内政と外交のバックボーン(軸になるもの)を探ります。

(summerphotos/gettyimages)

人道主義的価値観と人権

 バイデン大統領の内政を占うのが、1兆9000億ドル(約200兆円)規模の追加経済対策案です。バイデン氏は2月9日から上院で開催されるトランプ弾劾裁判よりも、この追加経済対策案の成立に重点を置いています。

 「結束」を呼び掛けていますが、バイデン大統領はこの対策案に関して共和党上院と妥協点を探るための交渉を打ち切り、民主党上院(無所属を含む)のみで成立させる可能性が高まってきました。バイデン氏は交渉がタイムリミットに達したと判断したフシがあります。その背景には何があるのでしょうか。

 バイデン大統領は追加経済対策案を「アメリカ救済計画」と呼んでいます。同大統領によれば、現在米国には2400万人の大人及び1200万人の子供が充分な食料を確保できません。

 そこで、国民1人当たり最大1400ドル(約14万8000円)の現金給付を行うこと、21年9月まで失業手当を週400ドル(約4万2000円)に拡充すること、連邦政府の最低賃金を時給7ドル25セント(約760円)から15ドル(約1600円)へ値上げをすることなどが急務であるからです。バイデン氏のアメリカ救済計画には人道主義的な側面が含まれています。

 米ABCニュースとグローバル調査会社イプソスの共同世論調査(21年2月5~6日実施)によれば、49%が「1兆9000億ドル規模の追加経済対策案を民主党のみで成立させるべき」と回答し、40%が「共和党の支持を得て小規模の追加経済対策案を成立させるべき」と答えました。大規模の追加経済対策案が小規模のそれを9ポイントリードしています。世論はどちらかと言えばバイデン氏の味方です。

 追加経済対策案に加えて、バイデン氏は大統領令の署名も急いでいます。特に、移民に関する大統領令です。

 というのは、トランプ前政権は不法移民の親子を切り離して施設に収容したからです。その結果、17年7月から18年6月までに少なくとも約5500人の子供が親から切り離されました。現在も約1000人の親子が再会できていません。トランプ前政権の「負の遺産」です。

 そこでバイデン大統領は大統領令に署名して、官庁を横断した作業部会を立ち上げることにしました。部会の委員長は国土安全保障省から選出されます。

 バイデン氏はトランプ前大統領の不法移民に対するいわゆる「親子分離政策」を人権侵害とみており、大統領令はそれを早期に解決するという同氏の固い決意を示したものです。要するに、人権と人道主義的価値観が内政のバックボーンになっています。


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