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2021年4月13日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

ロッキード事件の遠因にも?

 真相はいまだ不明だが、1972(昭和47)年、ハワイで行われた田中―ニクソン会談にも触れなければならない。ロッキード事件の遠因ともいわれるあの会談だ。

 この時の焦点は、当時激化していた貿易不均衡解消の話し合いと、日本側にとっては、日中国交正常化について米側に説明、理解を得ることだった。

 会談後に発表された共同声明によると、貿易不均衡に関して大統領は、米企業に対日輸出を増やすよう要請していると説明。首相は、「米国からの輸入促進のため努力する。不均衡を妥当な規模に是正する」と強調したという。

 この席でニクソン大統領は、日本側の具体的な貿易黒字削減策として、田中首相に対し、ロッキード社製の航空機を購入してほしいと要請したとの憶測が過去の多くの記事や著作で広く流布されている。

 首相が、これに応えようとして、ロッキード事件に発展したという見方だが、真相は今に至るまでもナゾのままだ。

 田中首相が米側に先んじて中国との国交正常化に踏み切ったことに不快感と警戒感を抱いたニクソン大統領やキッシンジャー補佐官の意趣返しが同事件の背後にあったという見方もなお日本国内でも強い。

 事実とすれば冷厳な国際政治の前には「同盟」など何の意味も持たないというべきだろう。

 ロッキード事件についてはなお未解明の部分が少なくないが、元をたどっていけば、この田中ーニクソン会談が起源というのが多くの研究の結論だ。真偽はともかく、戦後最大といわれた疑獄事件をめぐる因縁の会談だったといっていいだろう。

過去に照らせば、今回はどの類型?

 4月16日の菅首相とバイデン大統領との会談では、新型コロナウィルス対策、地球温暖化対策、中国、北朝鮮問題などが議題にのぼるとみられている。なかでも米中の〝新冷戦〟のなかで、中国に対して日米がどう共同歩調をとっていくかが、大きな焦点になる。

 バイデン大統領は中国に対して、香港、新疆ウィグルでの人権弾圧、南シナ海、尖閣周辺や台湾への挑発的な行動を深刻にとらえ、就任以来、制裁を含む強い姿勢を打ち出している。

  今回の首脳会談で、バイデン大統領が菅首相に対して制裁など強い対中政策に同調するよう求めて場合、日本側はどう応えるか。

 日本は中国の脅威をどの国以上に感じながらも、隣国という地理的条件、経済の相互依存のために、伝統的に強い姿勢を取ることができなかった。

 1989(平成元)年の天安門事件を契機に西欧各国が制裁に踏み切った際も、円借款の凍結など同調はしながらも、「孤立させるべきではない」という中国に同情的な考え方が外務省の主流だった。最近公表された外交文書から明らかになった事実だ。

 この時は、1年後に円借款を再開、1992(平成4)年に天皇、皇后両陛下(現上皇、上皇后)の訪中を実現させるなど、各国に先んじて関係を正常化していった。

 菅首相は、バイデン大統領の初の賓客などとはしゃぐ前に、米国の要請にあいまいな対応をすれば、米側の強い不信感、失望を招き、中国を利する結果となって両国の軋轢につながることを知っておくべきだろう。

 16日の会談は、これまでの3類型に照らしてみると、どの範疇に属することになるのだろう。

  
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