WEDGE REPORT

2021年2月26日

»著者プロフィール
閉じる

樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 女性蔑視の発言、緊急事態下での高級クラブ通いで元首相や元閣僚がポストを追われたのと時を同じくして、アメリカでは、寒波に凍える地元有権者を見捨て、暖かいメキシコに避げた大物上院議員が集中砲火にさらされている。

 ホワイトハウスでは女性記者を恫喝、蔑視した副報道官が辞職した。危機にあっても、気がゆるみ、欲望に負けるのは洋の東西を問わないようだ。

雪のテキサス州オースティン(ZUMA Press/アフロ)

メキシコに避寒、あわてて帰国

 大統領選の予備選に出馬したこともあるテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員(共和党)は議会休会を利用して2月17日夜、同州ヒューストンからメキシコ湾をはさんだ有数のリゾート地、カンクンに飛んだ。

 しかし、氏のメキシコ到着がSNSなどで大々的に報じられたため、あわてて旅行を切り上げ、観光地めぐりもせず翌日ヒューストンに戻った。

 上院議員とはいえ、休会中の私的な旅行が、なぜ問題になったのか。

 テキサスはじめ南部、中西部は祝日であるプレジデンシャル・デー(2月第3月曜日)の週末から、竜巻を伴った吹雪など大荒れの天気が続いた。同州では停電、断水のため多くの人が凍え、水、食料が不足して、死者が続出した。

 クルーズ議員がカンクンに向かう前日にはヒューストンのターナー市長が、「130万人の市民が暗闇にふるえている。電力が維持されているところはないか。すぐに電気が必要だ」と悲痛な声をあげていた。

 新型コロナウィルスのワクチン接種も中止され、バイデン大統領が大規模災害を宣言、連邦政府が緊急支援に乗り出した。死者総数はテキサスのほかテネシー、ケンタッキー、西部オレゴンなどの各州で70人以上にのぼっている。

保健当局の警告も無視

 上院議員は政府高官ではないから緊急事態対応の直接的な責任はない。しかし、自らに投票してくれた地元の有権者が困難かつ危機的な状況に置かれているのに、何ら手を差し伸べることなく見捨て、暖かい土地に逃れてしまったとあっては、 議員としての資質を問う厳しい批判がでるのは当然だった。

 氏は記者団に、「航空機に乗った瞬間から、軽率な行動だったと後悔した。私の旅行がさまざまな反響を呼び、そのことが寒波対応への妨げになってはいけないと思い、すぐに旅行を中止した」と弁明。娘たちから旅行に連れて行ってほしいとせがまれ「いい父親になろうとしたのが原因だ」と謝罪した。

 クルーズ夫人が旅行前、友人らにメールを送り「寒さに耐えられない」として避寒旅行への参加を呼びかけたことが明らかになり、コロナの危険地域メキシコへ行きを控えるようにとのCDC(疾病予防センター)の警告を無視した旅行だったことも手伝って批判が広がった。

2024年の大統領選出馬は?

  身内、共和党の受け止めも厳しく、地元テキサス州のアボット知事らが強く批判。民主党は願ってもない〝敵失〟に乗じて攻勢を強めている。

 テキサス州民主党は声明の中で、「緊急時においては、議員も連邦政府機関と連絡をとるべきだ。州民の保護のために行うべきことがある」「クルーズ議員は最も重要なときに州を見捨てた。州民の敵だ」と口を極めて糾弾、議員辞職を求めた。

 クルーズ議員は2012年の選挙で初当選。2016年の大統領選予備選に出馬し、トランプ前大統領に敗れたが、形勢不利の中で最後まで選挙戦から撤退せずトランプ氏と激しく対立した。

 しかし2018年の選挙で苦戦を強いられたことから、屈辱をしのんでトランプ氏の応援を要請、そのかいあってか辛くも議席維持に成功した。

 それに恩義を感じたのか、以後はトランプ氏に忠誠を誓い、米議会が占拠された2021年1月6日の大統領選選挙人投票結果の報告の際、バイデン氏の当選に最後まで異議を唱えた。

 2024年の大統領選への再出馬に意欲を見せているが、民主党は〝カンクン・クルーズ〟などと皮肉たっぷりのニックネームで揶揄、ラジオ・コマーシャルで放送する構えた。今回の問題がクルーズ氏にとって致命傷になれば、有力候補の1人が退場することになり、共和党の候補者選びの構図が変化する。

関連記事

新着記事

»もっと見る