2024年12月9日(月)

WEDGE REPORT

2021年1月10日

 トランプ米大統領は、あと10日余りとなった任期を全うできるのだろうか。大統領支持者による議会乱入を扇動したとして民主党はもとより身内の共和党からも激しい反発が噴出している。

 議会、メディアには、大統領が「職務遂行不能」に陥ったとして権限を停止する、再び弾劾裁判にかけて罷免すべきなどーなど強硬論が台頭する一方、大統領の自発的な辞職を促す声もでている。

 すべての手続きが〝時間切れ〟となって大統領が職にとどまったまま1月20日の任期切れを迎える公算も強いが、その場合でも「一市民」として刑事訴追を受ける可能性が残る。トランプ氏にとって、2024年の大統領選でのカムバックはもとより、平穏な引退生活を送ることもすら、うたかたの夢と消えてしまうだろう。

( REUTERS/AFLO)

「扇動」の批判やむなし

 大統領選での選挙人投票を確定させる米上下両院合同会議にトランプ支持者が乱入、議事堂を一時占拠した前代未聞の事件については、日本のメディアでも詳しく報じられたので、触れるのは避ける。これが民主主義の元祖、アメリカで起きたことかと目を覆うばかりで、バイデン次期大統領らが「もはや抗議ではなく暴動だ」などと非難したのも当然だろう。

 トランプ氏の関与しないところで事件が起きたならともかく、大統領の発した言葉がきっかけとなったのだから責任は極めて重い。

 大統領は両院合同会議にあわせてホワイトハウス前で支持者を集めて集会を開き、あらためて、勝者は自分だと主張、支持者に向かって議事堂に行って「力強さをみせつけてやれ」と過激な抗議活動をするよう呼びかけた。暴動を扇動したといわれても言い訳はできまい。

 大統領は群衆が議場や議長席、下院議長の執務室を占拠、死者も出るに至って、ことの重大さに気がつき、群衆に暴力をやめて帰宅するよう促したが、時すでに遅かった。

 このこと自体、自らの言葉が暴動を引き起こしたことを大統領が自覚している証左だろう。

憲法修正25条の職務停止議論

  事態がここまでくれば、トランプ氏の任期が残り僅か10日余りといえども、議会としてはさすがに放置しておくわけにはいくまい。

 下院議長に再選されたばかりのナンシー・ペロシ、上院院内総務のチュック・シューマー氏ら民主党議会指導者が大統領の解任について協議した。

 合衆国憲法修正25条では、副大統領または各省長官の過半数によって、大統領が職務と権限を行使できないと判断された場合は、副大統領が大統領代理に就くと規定されている。 

 民主党側はペンス副大統領に対し、この条項の適用を求めようとしたが、ペンス大統領が会談を避けたため、実現しなかった。

 シューマー院内総務は「議事堂で起きたことは、大統領が扇動した合衆国に対する反乱だ。もはや1日も職にとどまるべきではない」と強く非難。ペロシ議長も「大統領は非常に危険な人物だ。いまは最大級の非常事態だ」と同様に糾弾、トランプ氏がたとえ短期間でもそのポストにとどまることへの強い危惧を表明した。

 修正25条の適用については、副大統領、閣僚のうちだれが賛成するか不明であることに加え、チャオ運輸長官、デボス教育長官ら閣僚の辞職表明が相次ぎ、後任が指名されるのか、臨時代理が任命されるのか、臨時代理が解職の採決に加わることができるのかーなど手続き論も輻湊しており、実現するか不透明だ。

弾劾条項検討の動きも

 一方、下院司法委員会のデビッド・シシリン、ジェミー・ラスキン氏ら3議員は、トランプ大統領の弾劾訴追条項の案をとりまとめ、関係議員に配布した。訴因は「選挙結果を覆そうとしたこと、暴徒を扇動したことは、大統領が国家安全保障、民主主義、憲法への脅威となることを示した」とテロリストに対するとも思えるような表現で非難。あわせてトランプ氏が、今後公職に就くことを禁じている。

  こうした動きにアダム・キンジンガー下院議員ら共和党内からも賛成、同調する動きが出ている。

 ニューヨーク・タイムズ紙などもやはり弾劾を求めるコラムなどを掲載、メディアでも〝トランプ解職〟をもとめる〝筆鋒〟は強まっている。

 しかし弾劾手続きには、長い時間がかかる。下院司法委員会が訴追条項を取りまとめ、本会議で決定、裁判は上院で行われ、上院議員の3分の2の賛成があれば大統領は罷免される。

 トランプ大統領がウクライナ疑惑で弾劾裁判にかけられた際は、一昨年11月に調査が開始され、12月に下院本会議で訴追を決定、裁判は1月になってから始まり、2月に無罪評決がでている。この間3か月を要した。

 手続き作業を急ぎに急いだとしても、任期切れの1月20日までに上院での採決にこぎつけることは至難の業であり、弾劾実現は非現実的との見方も少なくない。


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