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2020年12月16日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 バイデン米次期政権の主要閣僚、ホワイトハウス・スタッフの陣容がほぼ整った。12月14日の選挙人投票で、バイデン当選が確定し、トランプ大統領による絶望的な抵抗にもかかわらず、政権交代への動きは着々と進んでいる。

 このまま混乱なく新大統領就任にこぎつけることができるか。上院での閣僚人事承認が当面の関門になるとみられるが、決選投票待ちという微妙な議席構成に加え、共和党の〝うるさ型〟の存在もあって難航も予想される。

 バイデン氏次男の疑惑についての捜査も始まっている。新大統領にとっては坦担たる大道とはいかないようだ。

(REUTERS/AFLO)

指名差し替えの事態も

 人事承認の難航が予想されるのは、とりあえず国防長官だ。バイデン氏が指名したロイド・オースティン元大将の経歴、人選の背景などは、すでにメディアで紹介されているが、氏の就任をめぐっては、文民統制の視点から問題視する向きがある。

 米国の法律では元将校は退役してから7年間は、国防総省(ペンタゴン)の要職に就くことが禁じられている。

 16年4月に退役したオースティン氏の場合、この規定に抵触するが、人事承認を審議する上院から「反対の権限を行使しない」との確約を得た場合は、例外となり、就任への道が開ける。

 上院としては、通常の指名承認の手続きに加え、権限放棄をするかどうかについても検討する必要があり、通常より慎重にならざるを得ない。しかも、きわどい選挙結果に対して現職トランプ氏がなお敗北を認めないという異常な状況が続くなかで、簡単に承認に踏み切ることができるか。

 バイデン氏はオースティン氏について、「経験豊富な指揮官、兵士であり、危機に対応するために適切な人事」と強調している。しかし、上院軍事委員会のトム・コットン航空小委員長は、バイデン氏がこれまで主要な外交政策で常に過ちを繰り返してきたとして、今回の国防長官人事についても「中国に柔らかな態度で臨むという本性のあらわれ」と強く非難、反対の態度を示唆している。

 オースティン氏については、中東を管轄する中央軍司令官を経験していることから、中東情勢には明るいものの、アジア、とくに中国や台湾に関する知見が少ないとの指摘があることも、対中強硬派が多い共和党の反対を促す理由になるとみられる。 

 しかし、共和党内だけでなく、民主党の一部でも文民統制を厳格に運用すべきとして、「オースティン国防長官」を疑問視する向きもある。こうした勢力が反対に回った場合、次期大統領が指名の差し替えを迫られることにもなりかねない。

カギ握るのは「不気味な死神」 

 大統領指名の人事は、かつては超党派で承認されることが多かったが、最近はこの暗黙のルールが崩れている。国防長官だけでなく、国務、財務、中央情報局(CIA)などの長官などとならんで 重要ポストだけに、上院が慎重になることに加え、大統領を窮地に追い込もうという政治的思惑がからむことがあるからだ。先代ブッシュ政権(共和党、1989-93年)の国防長官人事をめぐって、上院が指名された人物の資質を問題にし、撤回に追い込まれたのが悪い先例になってしまった。

 今回の大統領選と同時に行われた上院選では、定数100のうち、35議席(補選を含む)が改選され、これまで判明した新たな議席構成は共和党50議席に対して民主党48議席。確定していない2議席はいずれもジョージア州(うち1議席は補選)で、1月5日に決選投票が行われる。

 民主党が2議席を独占して50-50と同数になれば、上院議長は副大統領、つまり次期政権ではカマラ・ハリス氏が兼任するため、議長裁定によって同意、承認を得ることが可能になる。民主党が1議席でも落とせば、その実現は薄れる。

 米議会は日本の国会と違ってと党議拘束などく、賛否は議員個人の判断にゆだねられるから、議席構成は必ずしも重要とは言えない。しかし、トランプ大統領の意を受けたテキサス州の司法長官がバイデン氏が勝利したミシガン、ウィスコンシンなど4州の選挙結果認定を不当とする訴訟を提起、これに共和党の議員100人以上が同調したことなどもあって、共和党からの賛成者を期待できないとの見方がなされている。

 人事が同意されるかどうかでは、議会において党内を取りまとめ、法案採決の優先順位を決める院内総務がカギを握る。共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務は「不気味な死神」(ロイター通信)を自任する強硬派。民主党のオバマ前政権時代には、最高裁判事の任命を含む10指に余る人事案件を葬り去った。インフラへの公共投資など「大きな政府」につながる法案にもことごとく反対してきた。

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