2月9日から始まったトランプ米前大統領への2回目の弾劾裁判は、前回に続いて再び無罪評決が出る可能性が強い。2024年の大統領選でカムバックを目論むトランプ氏にとっては一安心だろうが、その通りにことが運ぶか。
弾劾無罪となっても、氏が刑事訴追される可能性はいぜん残る。
今回の弾劾の訴因となった議会襲撃の扇動に加え、就任前からの自身の女性スキャンダル、ファミリー企業の脱税、粉飾問題などすでに当局が捜査を始めている疑惑が少なくない。
「弾劾された初の大統領」という不名誉をまたも逃れるとしても、刑事被告人として有罪、服役という恐ろしい事態に陥る可能性もある。
共和党の造反少なく
トランプ氏に対する2回目の弾劾決議(起訴状に相当)は、その理由として、2021年1月6日、暴徒が議会を襲撃した事件を扇動したことと、同月2日に、大統領選で僅差で敗れたジョージ州の州務長官に電話して、「選挙結果を覆すに十分な票を見つけ出せ」と圧力をかけた事実をあげている。
そのうえで、トランプ氏の行動は、国家安全保障、合衆国憲法、民主主義にとって脅威になるとして、今後いかなる公職に就くこと、(前大統領としての)権利、名誉、利益をはく奪されるべきだ――としている。
上院で始まった弾劾裁判初日、陪審員である上院議員(定数100)によって、すでに退任した大統領を弾劾訴追することが憲法の規定に合致するかどうかの討議、採決が行われた。
合憲56ー違憲44、民主、共和がそれぞれ50議席と勢力が拮抗しているなかで、共和党議員のうち6人が合憲、弾劾裁判の継続に賛成した。
弾劾が成立するためには上院議員のうち3分の2以上、67人以上の賛成が必要だが、弾劾裁判賛成が6人にすぎなかったことから、有罪評決にはるかに及ばない可能性が強い。
共和党内では、議会襲撃事件直後こそトランプ大統領を非難する声が聞かれたものの、下院での弾劾訴追決議に賛成したのは10人にとどまっていた。
トランプ非難の声が急速にしぼんだのは、氏に投票した有権者が7400万人にものぼるため、これらの反発を恐れたためと、それによる2022年の中間選挙への影響を考慮した結果とみられている。
検察は訴追に意欲
しかし、弾劾裁判での無罪放免と刑事訴追は関係がない。
議会襲撃事件の翌日に早くも、ワシントン連邦検察庁のマイケル・シャ―ウィン検事補は、トランプ氏の刑事責任追及がありうると示唆した。
シャーウィン検事補は、「すべての登場人物、いかなる役割を演じた人物でも、犯罪を構成することが明らかになれば起訴される」と述べ、訴追すべき人物を選別しないことを明らかにした。
トランプ氏がそのなかに含まれるかについて繰り返し聞かれ、「私は壊れたレコードではない。すべての関係者を吟味している」と述べ、その可能性を事実上、認めた。
一部の法律専門家は、トランプ氏が「議会へ行け」と暴徒に指示したことをもって、国家への反逆、暴動、その扇動を禁じた合衆国法令の「犯罪および刑事手続き」に照らして、明確に抵触すると指摘(トーマス・ジェファーソン法律大学院、マージョリー・コーエン教授)する。この罪で有罪になった場合は、禁固10年に処せられるという。
また、トランプ氏は法の執行を暴力によって妨害したり遅延させたり、またはその謀議を凝らした罪で起訴される可能性があるといい、有罪となれば最高刑は禁固20年というから恐ろしい。
一方、議会、ホワイトハウスを管轄するワシントンDCの司法当局はさらに、トランプ訴追に意欲的だ。カール・レーシン司法長官は1月17日、米テレビのインタビューのなかで、トランプ氏を名指しで、「議会襲撃前、その最中、直後の行動は事件と重要な関連がある」の見方を披歴、強い嫌疑をいだいていることを隠さなかった。
トランプ氏が罪に問われた場合、DCの法律では禁固6月という短いものであることに言及、「連邦検事と密接に連携している」と述べ、長期の刑を模索していることをうかがわせた。