2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2012年10月17日

炭鉱夫やらせ疑惑

 9月19日にロムニー陣営はオバマ大統領のエネルギー政策を批判するテレビ宣伝を流し始めた。大統領の政策により炭鉱は閉山の危機にあるとの炭坑夫の訴えを流す2本のコマーシャルだが、そのうちの1本では壇上に並んだ炭鉱夫を背景にロムニー候補が演説する場面が流れる。オバマ陣営はこの場面はやらせだと問題にし、「強制的」とのタイトルのテレビ宣伝を流し始めた。

 ロムニー候補の演説は8月14日に撮影されたが、背景に並んだ炭鉱夫は、私も個人的に知っているボブ・マリーが経営する炭鉱から参加していた。ボブ・マリーは歯に衣を着せず発言することで知られる有名な共和党支援者だ。演説当日ボブ・マリーが炭鉱を閉めてしまい、炭鉱夫は日当の支払いもなく参加を半ば強制されたと地元のラジオ局が報じたことをオバマ陣営は取り上げたのだ。

 ロムニー陣営も黙ってはいない。「破産」というタイトルの宣伝フィルムを創った。2008年に温室効果ガスの排出権取引制度検討時にオバマ大統領が述べた「石炭火力発電所を作りたければ、どうぞ。ただ、破産するだけだ」という場面を流し始めた。「オバマ大統領の政策では石炭を毎日のように使っている中国に仕事は流れるだけだ」とフィルムは続く。

 オバマ陣営も格好の攻撃材料を見つけた。「仲間ではない」とのタイトルのフィルムを流している。2003年マサチューセッツ州知事だったロムニー候補の演説場面だ。石炭火力発電所の前でロムニー候補は「人を殺す仕事は創り出さない」と演説している。その前にはロムニー候補がスイス銀行に口座を保有し、租税回避地のバミューダ、ケイマン諸島に資産を保有していると紹介している。

炭鉱の雇用は増加しているが、生産性は悪化

(表-1) 石炭生産量と炭鉱夫数の推移
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 オバマ陣営はさらに反論材料を見つけた。炭鉱における雇用は増加しているのだ。表‐1は米国の石炭生産数量と炭鉱夫数の推移だ。雇用は増え1996年以降炭鉱夫の数は最大になっているとオバマ陣営は主張を始めた。

 オバマ大統領の任期中に520万の雇用が全産業で増加し、失業率は2009年以来最低になっているとオバマ陣営は述べ、10月3日の公開討論会でロムニー候補が「大統領の政策で石炭産業が壊されていると多くの人が感じている」と主張したが、そう思っているのは一部の人間であり、実際には石炭産業は繁栄していると主張している。

 表-1を見ると、2000年代半ば以来炭鉱夫の雇用は増えているが、生産数量は増加していない。要は、地質、採炭条件が悪化しているために炭鉱夫の数が増えているということだ。生産性が悪化し、コスト上昇につながっているだろう。市場価格もやがて上昇する可能性がある。この価格上昇はガスとの競争で大きな問題を石炭産業にもたらす。


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