5月22日、英国空母クイーン・エリザベス号は、英南部のポーツマス港を出発した。7か月間、40か国を訪問する予定で、日本にも寄港する。
空母クイーン・エリザベス号の出発に先立つ5月19日付の英フィナンシャル・タイムズ紙では、同記者のKathrin Hilleが、インド太平洋地域は欧州にとって当然に利害のある地域ではないとする論説を掲げている。
確かに、インド太平洋地域は、欧州にとって当然に利害のある地域ではないかもしれない。が、最近、欧州において同地域への関心が高まっていることは事実である。ただ、関心の度合いは国によって異なる。
フランスは、仏領ニューカレドニアやタヒチがあり、太平洋島嶼領域で世界最大の排他的経済地域を持っており、関心が高いのは当然である。マクロン大統領が2018年5月にオーストラリアを訪問したとき、インド太平洋戦略の概要を発表している。続いてドイツが2020年9月に、オランダが2020年11月にそれぞれインド太平洋戦略を発表している。イギリスは、かつてインド太平洋地域に多くの植民地を持っており、地域とのかかわりが歴史的に強い。このような個々の国の関心の他に 、EUとしても、今年4月19日のEU外相会議で、インド太平洋戦略を討議した。9月に戦略の具体案を取りまとめると報じられている。
インド太平洋戦略を策定するばかりでなく、艦艇等の派遣、共同訓練等も進んでいる。冒頭に述べたように、イギリスの新しい空母、クイーン・エリザベス号は、インド太平洋に向けた処女航海を行う。5月11日からは、日本において、フランス軍が、日米豪軍とともに、、共同演習「ジャンヌ・ダルク21」を実施した。フランスの空母、シャルル・ドゴールもインド太平洋に向かっている。フランスは既に4月には、ベンガル湾で、日米豪印と共同訓練を行った。オランダとドイツも、インド太平洋にフリゲート艦をそれぞれ1隻派遣することを決めている。
これらの展開は、米中間の地政学的競争が激しさを増しているインド太平洋地域の安全保障が、欧州の課題として登場したことを意味している。
欧州はインド太平洋地域での自らの役割について、アメリカを補うものと見ていると評されている。アメリカのインド太平洋戦略が中国を意識し、中国を封じ込める色彩が強いのに対し、欧州は中国への対決色は出していない。フランスで最近インド太平洋大使に任命されたクリストフ・プノは、取材に対し「我々のインド太平洋戦略は中国に対して向けられているわけではない」と答えたと報じられている。ただ欧州も、香港、新疆ウイグル、チベット等の人権問題については中国を批判しているのは周知のところである。
欧州のインド太平洋戦略については、9月にEU外相会議が具体策を取りまとめるのが待たれるが、欧州のインド太平洋に対する関心は今後とも高まることが予想される。これは日本にとっても歓迎すべきことであり、インド太平洋戦略が今後の日本と欧州との戦略対話の一つの重要な議題となっていくであろう。
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