安易な「解決」を目指さず、
日本の立場をアメリカに説明すべき
このように、尖閣の国有化後の日米中関係はそれぞれの思惑が複雑に交錯し、しかも東シナ海では各国の艦船が入り乱れ、世界の3大経済大国を巻き込んだ武力紛争が起こる可能性が排除できない危険な状態が続いている。台頭する中国が国際ルールを遵守する形でより建設的な役割を担うように導くことが日米にとって最大の課題であるが、日中関係が冷え込んだ状態が常態化すれば、日米の対中戦略も軌道修正を行わなければならなくなるだろう。
日本にとって好ましくないのは、アメリカ政府が日中関係の悪化を懸念して、日本側に譲歩を迫るというシナリオだ。つまり、中国政府は日本政府が尖閣の領有権をめぐる紛争が存在せず、交渉に応じようとしないことに不満を募らせているが、アメリカが事態の打開を期待して日本側に紛争の存在を認めて中国側と交渉するように圧力をかけてくる可能性がある。事実、アメリカ太平洋軍の研究機関に所属する日本研究者は、日本が紛争の存在を認めた上で、国際司法裁判所で領有権問題を解決すべきだと提案している。
もちろん、中国が国際司法裁判所での解決を望むなら断固受けて立つべきだ。だが、日本が根拠に乏しい中国の領有権の主張を受け入れて仲裁に持ち込めば、竹島や北方領土問題にも悪影響を及ぼすし、同じく中国の一方的な領有権の主張に立ち向かおうとしているフィリピンやベトナムは日本への信頼を失うだろう。日本は決して安易な「解決」を目指すべきではなく、その立場をアメリカにも十分説明する必要がある。
「日中友好」という幻想からの脱却を
今にして思えば、石原慎太郎東京都知事が4月にワシントンで都による尖閣諸島の購入の意向を発表したときに、すでに日米中関係の変容は避けられないものとなっていたのだ。石原知事の発表は、日中両政府だけでなくアメリカ政府も困惑させた。つまり、石原知事は尖閣の領有権主張を強める中国政府にも、有効な対抗策を打ち立てられない民主党政権にも、そして尖閣の領有権については中立の姿勢を貫くアメリカ政府にも不満を持っていた。だからこそ、わざわざワシントンで尖閣の購入計画を発表したのだろう。
一部には尖閣購入を目指したことで事態を深刻化させた石原知事を批判する声もあるが、日本国民の7割が現在の中国の強硬なやり方に不満を持ち、自発的に14億円もの募金が集まったのは、日本人の多くが現在の日中関係のあり方に疑問を持っている証左である。
一方、中国の反日暴動も単なる官製デモではなく、歴史問題に中国人の大国としての自信と日本への劣等感など複雑な心情が絡み合ったものだったのだろう。日中、そしてアメリカは石原都知事が尖閣購入を発表するまでそれぞれが1970年代の立場に固執し、現実に即した方向に舵を切れなかった。そこに今日に至る根本的な問題があったのではないだろうか。逆に言えば、「日中友好」という幻想を前提とした日中関係、日米中関係を根本的に見直す時期に来ているのだろう。