2022年12月10日(土)

Wedge REPORT

2021年6月17日

»著者プロフィール
著者
閉じる

多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

1961年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同理工学研究科修了。大手メーカーにて商品開発・企画を担当後、独立。現在、商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。

チョコレート専門技術校を開設

専門技術学校「エコール・ヴァローナ 東京」

 ここまで、カカオ生産の上流を見てきましたが、次は下流の話「どう使ってもらうか」です。ヴァローナには、もう一つ持続しなければならないものがあります。顧客であるパティシエたちとの関係です。

 一番の顧客は一流のパティスリーやショコラトリー、そしてホテルやレストランです。彼らに自分たちのチョコレートブランドやチョコレートを理解してもらい、より素晴らしいデザートたちを作ってもらう必要があります。そうはいっても、パティシエは日々忙殺される日常業務があります。その上で新しい技術を生み出したり、新しいメニュー作りのために、ユニークなアイデアを考えます。時間がない時がほとんどです。 

 ヴァローナがとったのは、自社のチョコレートを熟知した自社のシェフによる専門技術校の創設でした。プロですから、お料理教室のイメージとは異なります。どちらかというとラボです。

 作業部屋に入るとアイランドキッチンが3つ。ではなく専用台と言った方がイイでしょう。なんせ、チョコレートは温度と湿度に非常に敏感なので、作業台は、チョコレートが扱いやすくなるよう、強度・耐性・表面温度を考慮し、最適な素材の厚みの大理石製です。

 また、湿度影響を考慮して、シンクはありません。また部屋の隅には、メーカーとエコールが共同で開発した、テンパリング(チョコレートを溶かして固める時の温度調節)やコーティングができるエンローバーという機械なども並べられています。ヴァローナのオフィスに併設された専門技術校「エコール・ヴァローナ 東京」は、チョコレートのノウハウをすべて組み込んだラボの設計となっており、チョコレートを扱うのに最適なメインの作業部屋、水回りやオーブンなどがある準備室、チョコレートを貯蔵するチョコレートルーム、デジタルを取り入れた進化系ラボE-lab(イーラボ)から成り立ちます。

チョコレート彫刻「テスカトリポカの戦士」

 準備室は、繊細な温度管理が必要なチョコレートに影響を与えないよう、熱や水を扱う作業を行います。チョコレートルームは、季節に応じて14℃~16℃に調節され、一定の温度管理がされています。エコール・ヴァローナでは、様々な国から多くのプロフェッショナルが訪れ、講習会やデモストレーションなどの多彩な活動をしているため、その準備や創作活動の動線が十分に考慮され、緻密に設計されているのです。

 チョコレートルームには、ひときわ目を引くチョコレートで作られたアートがありました。これは、フランスのポール・クラインシェフによるチョコレートの彫刻作品「テスカトリポカの戦士」。エコール・ヴァローナ 東京が主催したピエスモンテ特別講習会に彼を招聘して作成した作品だそうです。ヴァローナとの繋がりを作品に残したいという思いから、人間にカカオをもたらしたと言われるアステカで崇拝されたジャガーの姿をした神を題材にしており、繊細な細工が、躍動感にあふれる表情を作り出し、今にも迫ってきそうです。

 ヴァローナは、プロフェッショナルのスキル向上や、広くシェフたちを紹介するため、世界的なイベントに貢献しています。日本でも毎回メディアで大きく取り上げられる、1989年創設の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」の創設者のメンバーでもあり、今もメインスポンサーとしてサポートを続けています。

 コンクール優勝=その世界のトップではありませんが、人は競うことにより、どんどん力を付けていきます。「学び」と「競争(実践)による研鑽」。これは次の世界を考える上で、重要事項です。

 こちらはSDGs12「つくる責任、つかう責任」。及びSDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」に当たるといえます。

ヴァローナが教えてくれること

 今、いろいろな会社が必死になってSDGsに取り組んでいます。しかし、なかなか上手くいきません。どことなく抜けがあるのです。ヴァローナの様に、見事なサイクルを描いているのは、少ないです。

 理由は幾つかありますが、大きいことが2つあると思っています。1つは「フェア」であることです。「人は平等」であり「既得権なし」です。これが非常に難しい。

 しかし、彼らが「農作物」を扱っていること、「品質」を重視していること、この2つがフェアを支えていると思います。「農作物」の相手は自然です。大自然は、人の持っている技術が通用しないことが、すこぶる多い。このため「学ぼう」とする姿勢ができてきます。

 もう1つは「品質(味わい)」が絶対価値であることです。お金を中心に据えて考えると、アンフェアの方が儲かるでしょうし、学校、コンクールもいらないでしょう。しかし、それでは「持続」できません。

 ヴァローナは、2020年3月に、社会や環境に配慮したサステナブルなビジネス活動に努め、説明責任や透明性など厳しい基準を満たした企業(日本企業では全産業でわずか6社)のみに与えられる「B Corp認証」を取得しています。

 ヴァローナの成功は、「目標(品質と味わい)に合わせた持続可能な構造改革」と、農園、パティシェと「信頼構築のうえ、ガッチリしたスクラムを組めた」ことだと思います。簡単な様ですが、会社は儲けるためにある、ということからの発想転換が必要と言えます。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る