2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月11日

 5月23日付の韓国・中央日報の社説は、米韓首脳会談を終えて、文在寅は米韓同盟を更に強化すべき時だと述べている。

Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 この中央日報の社説は、あまり高揚感のない社説になっている。5月21日の米韓首脳会談を通じて米韓同盟を再確認したことが最大の成果であるとして、文在寅政権が米韓同盟を強化することを求めている。他方、ワクチン確保には失敗したこと、対北朝鮮政策については米韓の溝は埋まっていないこと等を認めている。社説は、文在寅は米韓同盟を守るために対中姿勢の修正を決意したと言いたいのかもしれないが、そう楽観はできないように思う。バイデン大統領にとっては、任期が1年を切る文在寅に過度に圧力をかけることは今後の米韓関係にとり利益にならないと判断したというのが真相ではなかろうか。

 米韓首脳会談に先立つ5月18日と19日、中央日報は社説を掲載し、今回の会談に特別大きな期待感を示していた。それは特に韓国の保守、専門家などの強いムードを代弁するものだったのだろう。「米韓首脳会談に望む、同盟を強化し、北朝鮮の核やクワッド(日米豪印)で協力を強固に」と題する5月18日の社説では、同盟強化の他に、対北朝鮮、対中姿勢の明確化、クワッドへの参加表明を強く期待した。特にクワッドとの協力を打ち出して、米韓同盟を元の軌道に戻すべきだと主張していた。「ワクチンと半導体協力が国益のために重要だ」と題する5月19日の社説では、「文大統領はワクチン確保に総力を尽くす必要がある」、「今回の首脳会談が、韓国のワクチン不足を乗り越え、半導体の戦略的価値も強化する契機になることを望む」と強い期待を寄せていた。

 北朝鮮について、韓国は、板門店南北宣言、シンガポール米朝合意等を基礎として対応することに米韓が一致したことを成果だと考えているであろう。これは文在寅大統領の主張でもあったし、おそらく金正恩委員長の要求でもあろう。しかし、米国にとり目下の最大の問題は、如何に北朝鮮を交渉のテーブルに引き出すかということであり、柔軟性は今の局面ではかかる目的に合致する。米国の対北朝鮮政策が変化したと言う訳ではない。文在寅は4月21日付のニューヨーク・タイムズ紙とのインタビュー記事で、「バイデン大統領は今こそ北朝鮮と対話すべきだ」、「トランプ前政権の成果とその土台の上でより進展させていけば、その結実をバイデン政権が手にすることができるだろう」等と発言をしていた。

 「クワッド」への参加について具体的な進展がなかったことには、韓国の保守派の一部には失望感があるかもしれない。しかしこの問題は首脳会談の直前に決着した。米大統領報道官サキは、5月20日、「バイデン大統領は文大統領にクワッドへの参加を求めて圧力を加えるのか」との質問に、「クワッド加盟国の変化について予測や予想をしていることはない」と述べ、クワッド拡大問題が話し合われる可能性を事実上否定した。フィナンシャル・タイムズ紙等は、韓国が中国に配慮して拒否したと言うが、真相は分からない。気乗りのしない参加はクワッドを不安定化させる。

 ワクチン・スワップの取引が出来なかったことについて、韓国内には大きな失望感があるだろう。他方バイデンは、韓国軍55万人に接種するワクチン提供を発表した。なお半導体の協力につき、同行した韓国半導体企業は多額の対米投資(サムソンなど合計400億ドル)を発表した。

 今回の米韓首脳会談は無難に終わったように見える。バイデン政権は忍耐強い政権である。同盟国と不必要な対立は出来るだけ避ける。社説等が示唆するほど、対中関係、対北関係、民主主義の擁護等につき文在寅政権が従来の立場を転換したのか分からない。言葉で処理した側面もある。しかも文在寅の任期は来年5月9日に満了する、すなわち後1年を切っているわけである。来年以降の韓国大統領が誰になるか分からない中、つなぎとしての重要な米韓首脳会談であったのだろう。

  
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