2024年12月23日(月)

韓国の「読み方」

2021年6月3日

(andriano_cz/gettyimages)

 歴代保守政権の流れをくむ韓国の最大野党「国民の力」で異変が起きている。党首に当たる代表を選ぶ選挙で、国会はおろか地方での議員経験すらない36歳が世論調査の支持率トップを走っているのだ。代表は、来年3月の大統領選の候補選びを仕切ることになる。前代未聞の30代の代表となれば、今後の政局に大きな影響を与えそうだ。

 李俊錫(イ・ジュンソク)氏。8人の立候補者を世論調査で5人に絞る「カットオフ」で他候補を圧倒した。当初は泡沫に近い扱いだったが、他の若手議員も出馬したことで「新旧対立」の構図に持ち込むことに成功して急浮上した。結局、他の若手はみな脱落したため、11日の本選でベテラン4人と対決することになった。

 李氏に対しては「経験不足だ」という懸念が強く、本選での勝利は難しいというのが常識的な判断だ。本選では党員投票が重視されるため、世論に必ず連動するわけではないという事情もある。

 ただし来年の大統領選を考え、世論受けする代表がいいと考える党員も少なくない。代わり映えのしない重鎮が居座っていては党勢回復を望めないという意見も強い。さらに、政界での新たな取り組みや流れを歓迎しがちな韓国世論の特性も李氏を後押ししている。

 しかもベテラン4人と若手1人の戦いで、勝つのは1人だ。ベテラン勢は組織力を持つものの、つぶしあいになる恐れがある。合従連衡を模索することになるが、調整がうまくいかなければ李氏有利だろう。

ハーバード卒、保守改革派の論客として活躍

 渦中の李氏は、どんな人物なのだろうか。

 政界入りは2011年末だ。翌12年の総選挙を前に、当時は李明博政権の与党だったセヌリ党に入った。韓国では党勢が傾くと、非常対策委員長という役職を置いて強引な改革を進めることが常態化している。この時は同年末の大統領選をにらむ朴槿恵氏が非常対策委員長で、李氏は非常対策委員の一人として外部から抜てきされた。

 無名の26歳だったが、韓国では世論受けする要素満載の経歴で一躍脚光を浴びた。

 エリート校のソウル科学高から米ハーバード大に進み、コンピューター科学と経済学を学んだ。大学卒業後に帰国。起業してベンチャー経営をするとともに、低所得層の子供たちの学習支援をする団体を友人と立ち上げた。「古くさい中高年男性の党」というイメージを良い意味で裏切る人材だった。

 その後、総選挙と補選で国会に挑戦するも、相手が大物だったり、保守分裂選挙となったりで苦しみ、3回連続で落選した。一方、党内では要職を任され、保守改革派の論客としてメディアで活躍。SNSでの発信も活用して、認知度は高まった。そして今回、党改革を訴えて代表選に出馬した。

 韓国政界では2000年代以降、党内の選挙に世論調査を利用することが多くなった。今回の代表選で候補を5人に絞った「カットオフ」では党員対象と一般有権者対象という2種類の世論調査を行い、結果を50対50の比率で足し上げた。

 前述の通り、李氏は高い知名度を持っているものの、議員経験がないこともあって党内基盤が弱い。それなのに党員対象の世論調査で31%の支持を集め、トップだった羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)元院内代表の32%にほぼ並んだ。一般有権者の世論調査では51%の支持を集め、26%だった羅氏を突き放した。

 この結果を受けて李氏に対する注目度は急上昇した。李氏が本選へ向けた選挙資金集めを始めると、3日間で法定上限の1億5000万ウォン(約1500万円)が集まった。寄付額の平均は6万~7万ウォンで、これまで保守派には難しいとされてきた小口献金集めに成功したと評価されている。こうした動きが、党内世論に与える影響は無視できない。

 本選は、党員投票7割、一般世論調査3割という比率で結果を出す。党員投票では組織票を持つベテランが有利なはずだが、ここには新型コロナウイルスという変数がある。これまでは各陣営に動員された党員が詰めかける党大会での投票も大きな意味を持っていたものの、今回はすべてスマートフォンなどを使ったリモート投票だ。旧来型の動員をできなくなったことで、ベテラン勢は票を読みづらくなった。


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