韓国の「読み方」

2021年5月15日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 韓国の文在寅大統領が就任4周年にあたる5月10日に演説と記者会見を行った。ネット中継を見ていた私は、「なんでここまで強気になれるのだろうか」と首をかしげた。日本で関心を持たれる対北朝鮮政策での前向きな姿勢より、国内問題で見せた保守派との対決姿勢に驚いたのだ。

(YONHAP NEWS/アフロ)

 文氏を取り巻く環境は極めて厳しい。4月のソウル・釜山両市長選では与党候補が惨敗した。政権・与党への批判が最大の敗因で、選挙結果を決めた要素を聞いた事後の世論調査で「野党の候補や政策がよかったから」と答えた人は7%しかいなかった。1年前には支持率を大きく押し上げた新型コロナウイルス対策でも、最近はワクチン接種の遅れへの批判が強い。ソウルのマンション価格高騰に代表される不動産失政への不満は強く、公社職員による土地投機スキャンダルの発覚は世論の怒りを買った。

 そもそも任期5年で再選のない韓国大統領にとって、任期最後の1年は死に体(レームダック)化が避けられない。文氏の支持率も、就任以降で最低の30%前後に落ち込んでいる。それなのに演説と会見での言葉は、腰を低くして挽回しようというものではなかった。

「密輸疑惑」の閣僚候補批判も寄せ付けず

 韓国でもっとも注目されたのは、内閣改造にともなって指名された5ポストの閣僚候補の問題だった。野党が3人について「問題の多い人物だ」と攻撃していて、与党内からも人選を問題視する声が出ていたからだ。

 特に問題とされたのは海洋水産相候補者だった。海洋水産省のキャリア官僚で指名時には次官だった人物なのだが、夫人に陶磁器の密輸疑惑が持ち上がったのだ。前次官が駐英大使館に勤務していた2015~18年に夫人が1200点以上の陶磁器を購入し、帰国の際に「引っ越し荷物」として持ち帰ったうえで販売したのだという。

 本人の行為ではないといっても、外交官の引っ越し荷物は税関で検査されない特例を悪用したうえ、夫人が隠れてやったことというには数が多すぎる。「もともと販売目的ではなかった」などと釈明したが、海上での密輸取り締まりも業務とする海洋水産省の責任者としては問題だという批判が高まった。後の2人も、国民目線からは「不当な役得」と見られる行為が問題視された。

 韓国では、閣僚は任命に先立って国会の人事聴聞会に出なければならない。聴聞会といっても任命の可否を決めるのではなく、公開の場で適格性を確認するにすぎないが、趣旨としては野党にも納得してもらえる人物を起用しようというものだ。3人についても聴聞会は行われたものの、野党の反発は収まっていなかった。

 それなのに文氏は「野党が反対するからといって検証の失敗だとは思わない」と言い放った。「検証」というのは、公職候補者に問題がないか事前にチェックすることだ。さらに聴聞会について「(候補者の)能力はそっちのけで、欠陥についてだけ問題にして恥をかかせている。このような制度では良い人材を抜てきすることはできない」と問題視した。

 人事聴聞会は能力や適性をただす場なのに、それ以外の問題での人身攻撃ばかりだという指摘は多い。家族のことまでほじくり返される聴聞会に出たくないという理由で、閣僚への指名を拒否する人もいるという。だから制度の改善が必要だという議論はおかしくないのだが、大統領がこうした言い方をしても建設的な議論にはつながらないだろう。

 そもそも文氏はこれまでも閣僚の任命を強行してきた。韓国メディアによると、野党の反対を押し切って閣僚任命を強行したのは盧武鉉政権3回、李明博政権17回、朴槿恵政権10回。これに対し、文在寅政権では就任4年時点ですでに29回と断トツに多い。海洋水産相候補者はその後、指名辞退に追い込まれたが、強引な人事手法そのものは今後も変わらなそうだ。

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