2022年12月6日(火)

韓国の「読み方」

2021年5月15日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

ワクチン遅れへの批判はスルー

 コロナ対策でも強気の姿勢は変わらなかった。韓国では昨年2月に新興宗教教団での大規模クラスターが発生したものの抑え込みに成功し、その後も爆発的な感染拡大には至っていない。現時点での累計感染者数と死者数は、それぞれ約13万人、約1900人。文氏は演説で「もっとも重要な致死率において他国とは比較にならないほど低い水準を保っている」と自賛した。

 日本は感染者が約65万人、死者が約1万1000人と、それぞれ韓国の約5倍に達する。人口は2倍強なので、日本よりずっといい状況にあることは確かだ。

 とはいえ、韓国内ではワクチン接種の遅れに対する批判が強い。オクスフォード大が運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によると、演説のあった10日時点でのワクチン接種率は7.2%で英国や米国に比べると大きく見劣りする(日本は2.77%)。メディアや野党が、21日の米韓首脳会談でもっと早く、大量のワクチン供給をしてもらえるようバイデン米大統領から協力を取り付けろと繰り返し主張しているほどだ。

 ところが文氏は「ワクチン接種が加速化し、今や集団免疫の獲得も近い」と述べた。ワクチン問題での批判などどこ吹く風という感じで、むしろ「ワクチンの開発国でもなく、大規模な先行投資も行えなかったという環境下で、(中略)計画通りに滞りなく接種を進めていることには正当に評価されるべきだ」と語った。ワクチンが足りないと不安に思う世論をわざわざ刺激するような発言だ。

 経済でも同じだ。「全ての経済指標が堅調に推移し、回復基調を示している」と主張。ポストコロナのデジタル経済に備えようと1年前に打ち出した韓国版ニューディール政策についても、「あまり馴染みのない構想だったかもしれないが、正しい方向性だったことが証明されつつある」と自信を見せた。

 「経済指標が改善されたからといって、直ちに国民の暮らしが良くなるわけではない」とも付け加えたものの、多くの国民が体感する経済実態からは距離があったという見方が強い。

「弱い野党」が生む政権の「おごり」

 結局、不動産政策では成果を出せなかったことを認めたものの、合計で1時間あまりだった演説と記者会見の残りは自画自賛が目立った。

 予想されたことではあるが、野党からは「どこの国の話かと思った」などと反発する声が出た。保守系紙・朝鮮日報が翌日朝刊1面で掲げた見出しは「文大統領は経済も、ワクチンも、人事もうまくいっていると言っています」だった。ストレートに批判する気も失せたということか。社説では「国民は関心を持っていないのに、彼の自慢は虚空の中での独白のように続いている」と皮肉った。

 文氏の強気は、どこから来るのだろうか。

 実は、現在の30%前後という支持率は、、任期5年目に入る時点での数字としては歴代大統領の中でもっとも高い水準だ。今も残っている支持は固いもので、ちょっとやそっとで離れることはない。文氏とその周囲には、そんな見立てがありそうだ。

 保守野党が来年の大統領選へ向けた態勢作りをできていない、という点も大きい。朴槿恵弾劾で大きなダメージを負った保守派の立て直しはまだまだ途上であり、「古くさい保守派」という固定観念からの脱却を急ぐ必要がある。それなのに、敵失で拾ったソウル・釜山両市長選での勝利に気を良くしたのか、強硬派復権という「先祖返り」の兆しが見える。

 結局、いつでも政権交代を狙える野党の不在が政権の「おごり」を生むという、日本と同じような現象が起きていると考えればいいのだろう。与野党どちらも来年3月の大統領選を考えればそんな余裕はないはずなのにと不思議ではあるが、現状の韓国政界は与野党ともに精彩を欠いているのである。

  
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