2024年4月24日(水)

Washington Files

2021年6月14日

「中露軍事同盟」締結の可能性

 米国防総省スポークスマンは去る4月中旬、「ロシア軍がごく最近、ウクライナ国境方面に、大部隊を投入し始めた。その規模は、2014年のウクライナ・クリミヤ半島軍事併合時をも上回っている」と語った。

 そしてその直前には、中国人民解放軍が「記録的規模」(ペンタゴン筋)の戦闘機、爆撃機を台湾海峡、南シナ海上空に飛行させた。同海域における台湾側の防空圏突破を目的としたデモ飛行が目的とされた。

 今のところ、この中露両国によるほぼ同時期の軍事行動が意図的に連携したものだったかどうか不明だが、中国側はその後も、ウクライナ方面における新たな戦力増強ぶりを注意深くモニターし続けており、一説には、早ければ「今後6年以来」にも起こり得るとされる台湾侵攻に向けた戦略プラニングの参考にするねらいがある、との見方も出ている。

 さらに6月9日には、中国およびロシア軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に入ったことが確認された。中国は過去、接続水域内に繰り返し国家海警局の公船を進入させてきたが、軍艦は例がなく、また、ロシアは軍艦を過去同海域に展開したことがあったが、両国軍艦の同時進入は初めて。日米軍事専門家によると、今回の共同行動について、バイデン政権がとくに両国に対する厳しい姿勢を打ち出し始めことを受け、安保面で米国との関係強化に乗り出し始めた日本に対する牽制の意味も含まれているという。

 こうした動きを受け、今後最大の注目点は、「中露軍事同盟」締結の可能性だ。

 この点に関し、プーチン大統領自身が昨年10月、ロシア国営シンクタンク「ロシア国際問題協議会」(RIAC)主催の「バルダイ・ディスカッション・クラブ」年次総会に出席した際、出席者の質問に答えるかたちで以下のようにかなり詳しく自説を述べている。:

 「中露軍事同盟の可能性に関して言えば、あらゆることが考えられる。われわれは、両国間の協力と信頼のレベルがすでに、軍事同盟を必要としない程度にまで進展してきたと確信している。しかし、もちろん、軍事同盟は理論上、ありうる。両国はこれまで、海上、および陸上において定期的に軍事演習を実施してきており、戦力向上のための最善策について共有し合っている。軍事工業面でも、相互武器購入・売却のみならず、極めて重要な軍事技術協力も含めハイレベルの協力関係を維持している……これはきわめて敏感な問題だが、中国人解放軍の防衛能力向上を目的とした両国協力も進めており、とくに中国にとってのみならず、ロシアを利するものだ。

 今日の状況から今後どう発展していくかは、時間のみが語るであろう。現段階では軍事同盟樹立を、わが国自身の目標には掲げていない。しかし、それを排除するつもりはない。どうなるか見てみよう。これまでのところ、両国の協力関係に満足しているが、不幸にして、アメリカがアジア太平洋地域にINFを配備するなど、われわれは新たな脅威に直面している。ロシアとしてはこれに対処するために、相応のステップをとる用意がある」

 この発言を整理すると、①中露両国の軍事協力は現在、「軍事同盟」程度にまで深化している②従ってロシアとしては当面、「軍事同盟」締結を自国の戦略目標としていない③一方でロシアは、米欧結託による「新たな挑戦」を受けている④今後の国際パワー・ポリティックの趨勢次第では、中国との「軍事同盟」締結のオプションを保持している―の4点に集約されよう。

 他方、中国専門家で「ウラジオストク極東連邦大学」のアルチョム・ルーキン助教授は、米誌Foreign Policyに対し「中露両国はまだ公式の相互防衛協定の締結には至っていないが、すでに『「事実上の同盟quasi-alliance または 非公式の同盟entente』と呼ぶべき関係にある」と断じている。

 いずれにしても、中露両国の関係は今や「軍事同盟」の一歩手前の段階まで緊密化していることは確かであり、正式な協定締結は時間の問題となりつつある。

 こうした動きは、アメリカにとって、厄介な課題を突き付けられることを意味する。なぜなら、中国の台頭に直面したアメリカはオバマ政権以来、米軍事力の「アジア・シフト」に踏み切り、バイデン政権下でさらにアジア重視姿勢を鮮明にしてきた。しかし、近い将来、「中露軍事同盟」が締結された暁には、対処すべき脅威がグローバルに分散され、欧州およびアジアの「2正面軍事作戦」の立案を余儀なくされることになるからだ。

 アメリカは第二次大戦後の冷戦時代、「超大国」だったソ連相手に、欧州およびアジアの2方面において覇権争いと軍事的対峙を強いられてきた。しかし、ニクソン政権は1972年2月、歴史的な米中首脳会談を実現させ、国交正常化の道筋をつけた。米側の狙いは、かつて“一枚岩”ともいわれた中ソ両国の関係にくさびを打ち込むことにあったが、実際に7年後の1979年の米中国交樹立により、それ以来、グローバル・パワーとして存在を誇示してきたソ連が劣勢に追い込まれ、ついに1991年、ソ連邦崩壊の悲劇を迎えた経緯がある。

 それ以前、ソ連は、中国との密接な関係を維持することで、米軍事力を欧州とアジア両方面に分断させ、長期にわたりアメリカとの冷戦に対峙してきた。その歴史的教訓は今日、プーチン大統領の脳裏に深く刻み込まれているとみられるだけに、中国との軍事的結びつきを一層強めることは、「パワー・オブ・バランス」の観点からも、ロシア、中国双方にとって好都合となる。

 この点に関連し、「米国防総省高官」は「Foreign Policy」に対し「今後、アメリカが対処を迫られる中国およびロシアの軍事的脅威は、それぞれ態様と実体が均一ではないだけに、単純な戦略では間に合わなくなる。かりに中露両国が軍事同盟にまで至らないとしても、暗黙の了解の下にウクライナと台湾の両方面で緊張を高める事態となった場合、バイデン政権は困難な立場に追い込まれることになる」と警告している。

 さらに、アメリカのみならずわが国にとって最悪の事態は、万が一にも、中国軍がロシア軍支援の下で尖閣諸島を一挙に占拠した場合だ。そうなると、米政府はこれまで、「尖閣諸島防衛も日米安保条約の適用対象」としてきたものの、米軍単独で反撃に出ることをためらわせる事態となりかねない。

 この点で、両国の軍艦が同時期に尖閣諸島周辺の水域に進入したことは、不吉な兆候となりかねない要素をはらんでいる。

  
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