Washington Files

2021年6月7日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 アメリカでワクチン接種が急ピッチで進み、リモートワークを余儀なくされてきた一般企業の職務形態も正常に向かいつつある中で、元の職場復帰を懸念する勤務者が依然として全体の3分の2にも達していることがわかった。このため会社側も、出勤と自宅勤務を組み合わせた「ハイブリッド職務体制」を模索し始めている。

(polybutmono/gettyimages)

 米ライドシェア会社Lyft傘下の「Envoy」が去る2月、フルタイムおよびパートタイム勤務者1000人を対象として実施した調査によると、回答者の約75%が元の職場に戻ることについて「懸念している」と答え、さらに29%が「安全でフレキシブルに仕事ができる自宅勤務が大いに気に入っている」として、もし会社出勤を命じられた場合「転職する」とまで考えていることが明らかにされた。

 フリーランス、パートタイマー求人情報サイト「FlexJobs」が去る4月、在宅勤務者2100人に対して行ったアンケート調査でも、65%が「コロナ収束後もフルタイムの在宅勤務を望む」と答えている。

 医療・ウェルネス専門ウェブサイト「Verywell」は、なぜこのように多くの勤務者が職場への不安を抱えているかについて、以下のような専門家の見方を伝えている:

  • 「勤務者たちはコロナ禍で1年以上も職場から遠ざかっている間に、毎日混雑した電車やマイカーでの通勤、朝9時から夕方5時まで密になった職場環境は決して安全ではなく、今後もウイルス感染のリスクがある、と心配するようになった。ワクチン接種をまだ受けていない人たちもいる中で、会社側がどんな安全な職場環境づくりを考えているのかについても不安を抱えている者も少なくない」(メリーランド州医療施設「ADHD Wellness Center」ドーン・ブラウン所長)
  • 「私が診てきた患者の多くは、通勤時間ゼロ、よりフレキシブルな時間帯に仕事ができる在宅勤務の方に多くの価値を見出し始めている。中には、仲間たちと張り合って仕事を強いられる職場で余計なストレスを感じ、あるいは集中力を削がれるより、自宅での方がより能率も上がると思っている人も少なくない」(同州「Community Psychiatry」所属ラシュミ・パーマー精神科医)
  • 「もちろん、職場が正常な環境に戻り、再び仲間たちと合流して仕事ができることを楽しみにしている人も少なくない。ただ、その場合でも、家庭に残した子供の世話を誰かがしてもらえることを期待するケースが多く、患者の多くは、その折衷案として3日通勤、2日在宅勤務といった『ハイブリッド勤務体系』を望んでいる」(ニューヨーク州「The Metamorphosis Center for Psychological and Physical Change」レニエ・エクセルバート所長)

 上記の指摘のうち、『ハイブリッド勤務体系』に関しては、大手企業コンサルティング会社PwCが昨年末、全米のオフィス勤務者1200人と幹部役員133人を対象にアンケート調査したところ、勤務者の55%が「毎週最低3日間の自宅勤務を望む」と回答していることが分かったという。

 パーマー精神科医は、丸1年以上もオフィスから離れていた勤務者たちが突然、職場復帰を強いられることについて「生活リズムの調整、通勤時間の計算などストレスが出てくることは事実」と理解を示した上で、反面、家庭では得られない職場の利点として①社会的コネクションの再建②ロックダウン中に感じた孤独感の克服③仕事と家庭生活のけじめ④上司の目の前で仕事意欲を見せることで昇進の機会を増やせる―などの点を挙げている。

 一方で、長期間にわたる自宅勤務の結果、孤独感、うつ病、不安などの精神面での症状を訴える人が増えていることも指摘されている。

 たとえば、社員4万8000人以上を抱えるFacebookの場合、マーク・ザカーバーグCEOはすでに昨年以来、社員向けオンライン・メッセージで自宅勤務を呼びかけ、「今後5年以内に全社員の半数は恒久的に自宅勤務とする」との方針を打ち出しているほか、Google社も「年内いっぱい自宅勤務」を発表するなど、大手IT企業が“ニュー・ノーマル勤務”へとシフトしつつある。しかし、在宅によるストレスが高じ精神科医にかかる社員も増えており、Eli Lilly社のProzac、Pfizer社のZoloftといった、専門医が処方する抗うつ剤が各地で品切れ状態となっていることが報告されている。

 とくにIT関連企業では、会社と自宅を結ぶZoomによるやり取りや、テレカンファレンスが激増するにつれ、「精神疲労mental fatigue」の訴えや、「夜昼構わず、一日中、仕事に追われ、気を休めない」といった不満の鬱積も増えているという。

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