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Washington Files

2021年5月31日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 穏健中道主義を信条としてきたジョー・バイデン氏が大統領就任以来、福祉拡大、対富裕階層増税など大胆な政策を次々に打ち出し始めた。米マスコミでは「社会民主主義的転換」だとして、大きな話題となっている。

(123sasha/gettyimages)

 「バイデン大統領は、経済思想の歴史的転換に踏み出した。これは、多くの欧州諸国に存在してきた健康保険アクセス、教育機会の平等化、より深化した社会セーフティネットに特徴づけられた、ある種のソーシャル・デモクラシー(社会民主主義)建設を目指したものである」

 去る4月28日、バイデン大統領が就任後、初めて米連邦議会上下合同本会議で行った施政演説を踏まえ、米ワシントン・ポスト紙は同月30日、このような「数十年に一度の最も野心的提案」について大々的に報じた。

 ニューヨーク・タイムズ紙、オピニオン雑誌「アトランティック」なども同様に、伝統的米政府の経済理論からはみ出した「社会民主主義」とも呼ぶべき経済政策であることを強調している。

 バイデン大統領は3月初め、コロナ救済対策目的で1兆9000億ドルの緊急支出案を提出、法案を成立させたのに続き、第2弾として「アメリカ雇用プランAmerican Jobs Plan」と呼ばれる2兆ドル規模のインフラ投資計画、そのあと第3弾として幼児福祉・教育および低所得者救済を目的として1兆8000億ドルに達する「アメリカ・ファミリー・プランAmerican Families Plan」を相次いで発表した。

 就任半年もたたない段階で、クリントン、オバマ歴代民主党政権とも比較にならない約6兆ドルにも及ぶ大規模社会投資計画を国民の前に示し、支持を呼びかけたものだ。

 1930年代のフランクリン・ルーズベルト大統領が打ち出した「ニューディール」(新規まき直し)政策にも匹敵する大胆なものとされるだけに、「小さな政府」を信条とする議会共和党は早速「ビッグ・ガバメントの典型だ」として反対の狼煙を上げ始めた。

 ここで本来なら、全米各州の共和党支持層もこれに呼応し、財源確保のため法人税および富裕層に対する増税を表明しているバイデン政権の方針に真っ向から反発、国論が真っ二つに割れる大論議が起こっても不思議はない。

 ところが、ワシントン・ポスト紙報道によると、今回だけは、事情が様変わりしているという。

 同紙は、新たな独自調査の結果を踏まえ「“バイデノミックス”と呼ばれる同政権経済政策は共和党有権者含め幅広い国民層に支持されている」とした上で、次のような点を指摘している:

  1. 「Pew Research」はじめ複数の世論調査結果によると、大多数の米国民はバイデン政権が打ち出したコロナ救済策、インフラ投資計画そして社会福祉充実政策のいずれに対しても、積極的に賛意を表明している
  2. 国民は、以前から貧富格差拡大をもたらしてきた「コロナ禍以前の資本主義pre-coronavirus capitalism」に対し大きな不満を抱いてきただけに、今回の危機を契機として、弱者救済の手段としての増税、とくに突出した富裕層に対する増税案に比較的理解を示している
  3. 共和党としても最近、さすがにこうした国民のムードを無視するわけにはいかず、バイデン政権の提案より小幅だが、コロナ対策費として6180億ドル、インフラ投資予算として5680億ドル、そしてその後さらにこれに上乗せした9280億ドル案を提示した。これは4兆ドル規模の減税に象徴される企業最優先政策を推進したトランプ政権当時とは好対照をなすものだ

 実は当初、このような大胆な“バイデノミックス”には、共和党のみならず、民主党陣営からも批判の声が上がっていた。クリントン政権下で財務長官を務めた重鎮のローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授はその一人だ。

 サマーズ教授は「バイデン・プランは過去半世紀以上の間で最も深刻なインフレを引き起こしかねず、その結果、民主党は経済への恒久的投資の機会を失うことになる」「40数年ぶりの最も無責任な経済政策だ」などと酷評した。同教授は2008-09年財政危機に直面したオバマ政権下では経済顧問として大規模財政出動を指示した経緯もあるだけに、経済界にも大きな反響を巻き起こした。

 しかし、サマーズ発言に対しては、民主党内のバーニー・サンダース上院議員ら進歩派議員グループから猛反発が巻き起こった。ホワイトハウスとしてはその後、今回の一連の提案について「超党派的」であることを印象づけるため、財政出動規模を当初より20%程度縮小、共和党への歩み寄り姿勢を見せる一方、サマーズ教授ら党内慎重派とは距離を置き、当初の強気の姿勢を崩していない。

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