2024年11月20日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年11月14日

 米カーネギー平和財団は、2012年9月、南アジアの軍拡競争に関する報告書を出しました。筆者は、Toby Dalton米カーネギー財団核政策プログラム副主任とJaclyn Tandler在仏フルブライト先端研究員です。両者は、印パの最近の弾道弾ミサイル実験をみて、両国の核軍拡競争を懸念する声があるが、パキスタンはインドの通常兵器の攻撃に対する抑止のため兵器体系を構築する一方、インドは中国に対する戦略的抑止の強化とともに、力を世界的に投影することを目指しており、両国の核戦力の目的と安全保障戦略は異なったものである、と報告しています。

 すなわち、印パの核兵器数は過去10年で倍増し、インドが80-100、パキスタンが90-110持っていると推定される。が、これは核分裂性物資と運搬手段の生産高からの推計で、そのうちいくつが実戦配備されているかは定かでない。ミサイル実験のデータ分析の方が、両国の核戦力の理解の手がかりとなる。

 そこで、1998年、印パ両国が核実験を行って以降の両国のミサイル実験のデータを分析してみると、実験の総数では印パはほぼ同じだが、インドが弾道ミサイルと巡航ミサイルをほぼ同数実験したのに対し、パキスタンは巡航ミサイルが少ない。印パとも戦略的抑止力強化のため弾道ミサイルを開発したが、巡航ミサイルに関しては、両国の考えは同じでない。インドが巡航ミサイルは第三国への輸出を重視しているのに対し、パキスタンが巡航ミサイルを重視しているのは、インドのミサイル防衛網の突破のためと、潜水艦発射弾道ミサイルが未開発の間、核兵器を海上で展開するためである。

 このように、印パの巡航ミサイル開発は相互に関係ない形で行われてきた。

 2006年以降、印パの実験するミサイルの射程距離が乖離し始めた。インドの最新の弾道ミサイルAgni Vの射程距離は5000キロで、これはパキスタンを対象としたものでないことは明らかで、中国に対する抑止強化を目的としたものと見られている。

 また、インドが長距離で、核弾頭搭載可能なミサイルを開発している主な要因は、インドが直接の隣国をはるかに超えて、経済的、軍事的力を投影したいという意欲の現われと見られる。


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