「真珠の首飾り」と称される中国のインド洋への進出に、インドが「ダイヤのネックレス」で対抗する――。最近、このような構図が見え隠れするようになってきた。
インド洋における中国とインドのせめぎ合い
中国は中東やアフリカからのエネルギー輸送の安全を確保するため、インド洋沿岸部に「真珠」、つまり港湾のネットワークを整備している。一方、インドはこれらの真珠に囲い込まれることを警戒して、対抗手段としてインド洋から南シナ海の沿岸部に「ダイヤモンド」、つまりアクセス拠点を整備しようとしている。
中国はすでにパキスタンやバングラデシュ、ミャンマーなどの深海港の開発に関わっているが、インドもミャンマーで港湾の建設を行っている。民主化に向かいつつあるミャンマーは、真珠の首飾りとダイヤのネックレスが重なる要衝である。
この印中のせめぎ合いは、日本の海の生命線であるインド洋にどのような影響をもたらすのだろうか。
「人類史上最も重要な出来事」になった
インド航路の発見
アダム・スミスは、インド航路の「発見」を「人類史上最も重要な出来事」と書いた。古来アラブの商人が活躍していたインド洋では、ポルトガルに始まり、オランダ、イギリス、そしてアメリカへとその支配者が移り変わったが、これらの帝国によって次第に世界は一つとなった。インド洋は、西洋と東洋を結びつけることによって今日のグローバル化の端緒を開いたのである。
今日、インド洋では年間10万隻の商船が行き交い、総額にして1兆ドル相当の貿易を支えている。インド洋はまた、エネルギーの観点からも重要である。6割の原油と7割の石油製品がインド洋を通って流通するだけでなく、湾岸地域では世界の6割の原油と3割の天然ガスが生産されている。1日に1500万バレルの原油が通るホルムズ海峡と、1000万バレルの原油が通るマラッカ海峡は戦略的要衝となっている。
「マラッカ・ジレンマ」
中国にとっての頭痛の種
中国は、経済成長を維持するためにエネルギー安全保障を重視している。
現在、中国の海上輸送路は事実上アメリカ軍に守られているが、たとえば台湾有事の際にアメリカがマラッカ海峡を封鎖し、中国へのエネルギー輸送を遮断することを北京の政治指導者は恐れている。マラッカ海峡の出口に当たるアンダマン・ニコバル諸島をインドが領有していることも中国には頭痛の種である。胡錦濤主席はこれを「マラッカ・ジレンマ」と呼び、海軍力の増強と代替輸送路の構築に取り組んでいる。