すぐに強硬姿勢に転じられないほど複雑な米中関係
中東への関与を続けざるを得ないオバマ政権にとって、対中政策は、今後のアジア太平洋政策を考える上で、非常に悩ましい問題となる。2001年9月11日のテロ事件以降の米国の対アジア太平洋外交政策については「(特に東南アジア地域に対して)テロの文脈以外での関心が薄い」「中東に気を取られて、殆ど意味のある関与をしてきていない」という批判も多い。
また、同時期に中国が上り調子の経済力を背景に全世界で「微笑外交」を展開、一方で1999年以降着実に伸びている軍事費を用いて人民解放軍の急速な近代化を推し進めた結果、アメリカのプレゼンスが低下した空白に中国が入り込んできた、という指摘も多い。経済・金融面でも、対米貿易の最大黒字国であることや、人民元の為替レートが操作によって故意にドル高を維持しているという指摘もかなり前から燻っている。
特に、安全保障の分野で人民解放軍がサイバーセキュリティなどの「非正規戦」への投資を強化しているという事実や、最近の中国による南シナ海、東シナ海での中国の動き、第18回共産党大会での「海洋権益を断固守る」という胡錦濤主席の演説などは、中国の対外政策の今後への懸念を惹起させるには十分だ。今年1月の「国防戦略指針」を含め、昨年秋から今年にかけてオバマ政権が意識的に「アジア太平洋重視」のメッセージを発してきたのは、このような批判に応え、中国に対しても米国がこの地域に引き続き関心を持ち続けているという戦略的メッセージを送る意味もあったといえる。
ただ、中国に対する懸念は持っていても、すぐに強硬姿勢に転じることができるほど、米中関係は単純なものではなくなってしまっている。米国の対中貿易赤字は諸外国との貿易の中で最大、米国債も中国政府保有分はかなりの額に上る。ウォルマートに代表される米国の量販店のサプライチェーンにも中国は完全に組み込まれている。中国経済にとって対米輸出や米企業による中国内への投資が経済成長に不可欠であるのと同じように、米国経済にとっても、中国からの輸入や中国国内の労働力、原材料の提供は重要な一部を構成するものとなっているのだ。
だからと言って、中国がアジア太平洋地域の安全保障問題で傍若無人に振舞うのを容認するわけにもいかない。東アジアでも、北朝鮮問題のほかにも台湾問題という、米国の内政も密接に絡む難しい問題も抱えている。しかも、国連安保理常任理事国の一国である中国からの協力は、アジア以外の地域の問題を国連の場で協議する際にも非常に重要になる。イラン情勢がその好例だろう。米国の対中政策の難しさは、このような異なる力学を考慮して、いかに最適解を導き出すかにある。