持続性なき日本の漁業
前述のスケトウダラの例は、サバやイワシ、最近ではホッケと多くの激減していった他の魚種にも該当してきたのではないでしょうか? 水揚げが増加している間は、その水揚げが増加していく限り、右肩上がりに利益が出ていくのです。日本の水産業は一定期間、非常に活況を呈したのです。
しかし、ここには致命的な問題点が存在していたのです。それは、持続性(sustainability)の無さでした。ノルウェーでも日本でも漁業者が魚をもっと獲りたいと考えるのは極当然です。前述の大型巻網漁船は、その日魚群探知機に映っていた1,000トンを獲ることは技術的にも、運搬することも全く問題ないのです。それでも漁獲を500トンに抑えています。さらに解説を加えると、この漁船自体が持つサバ枠が1,900トンなので、漁獲枠の観点からも1,000トン獲っても何の問題もありません。
日本なら、物理的に運べるのであれば逃さず全部獲っていたことでしょう。漁獲枠がなくなるようだと「魚がいるのになぜ獲らせないのか! 経営に影響したらどうしてくれるのだ!」と大騒ぎとなるはずです。このため、予め漁獲枠を多くしてあったり、水揚げが増えてきたら枠そのものを増やしたりと、争いごとが起こりにくいようしてしまっているのだと思います。
如何に水揚げ金額を増やすかが「腕」
なぜ、このノルウェー漁船は、漁獲枠の範囲内なのに獲らなかったのか? それは、魚価と品質の問題です。一度に水揚げがまとまれば、魚価が下がります。漁獲枠は厳格に決まっているので、如何にたくさん獲るかが「腕」ではなく、決められた数量の中で、如何に水揚げ金額を増やすかが「腕」なのです。水揚げが分散されることで、鮮度面でもより良い状態が保てます。そして加工場の稼働率・稼働日数も増加します。
この漁船は、漁獲枠の数倍のサバを獲ることに、物理的には何の問題もありません。しかし、絶対にそのようなことはしません。そのような違反をしたら、魚が減って漁業が成り立たなくなることを知っているからです。1960年代に資源が減ったことを乱獲と認識し、その痛手から学んでいます。水揚げする工場には自動計量器がついており、正確に水揚げが表示・記録されています。また、VMS(衛星通信漁船管理システム)が漁船に付いているので、禁漁区やどこかでわからないように内密に水揚げすると、証拠がはっきると残るので誰もしません。全てきちんと公明正大に水揚げが管理されているのです。ここに日本の水産業との大きな違いがあります。
大漁旗を振って大漁を崇める文化、一つの資源を獲りつくしたら次は別のターゲットを獲りつくしてしまい最後は獲る魚がいなくなってしまうケース。そして、その原因を乱獲よりも環境の変化として理解してしまう状況――。これらは、決して漁業者が悪いのではなく、正しい情報の伝達と、資源管理政策が機能していないことに起因しているのです。