筆者が漁業者の立場であったとしても、このままのやり方では資源がなくなっていくと分かっているにもかかわらず、ノルウェー式を実行することは極めて困難です。もともと数量が多すぎで、かつ途中で増加してしまうケースがあるTAC(漁獲枠制度)をあてにして、旬の美味しい時期まで漁の時期を遅らせることは、個別割当てのルール(IQ・ITQ・IVQ)が実質的に無い以上できません。他の漁業者同様に漁獲していかねば、競争がある以上、すぐに経営が厳しくなってしまうのです。恐らくこのままでは良くないことは分かっているのだが…と同様の考え方を持つ漁業者の方は多いはずです。これは「理想と現実」の話しのようですが、ノルウェーなどには、有効な政策があるために「理想」が実現しており、対照的に日本はそうなっていないので、厳しい現実に直面しているということではないでしょうか? 世界には見習うべきモデルは既に世界にはいくつも存在しているのです。
日本の漁業は
世界一になれる高い潜在力を持っている
以下は、今回の視察した皆さんの感想の一部です。
「ノルウェー水産業視察で思ったことは資源を管理していけば儲かること。日本の漁業をまもるためにはTAC(漁獲枠制度)が厳格に守られ、個別割当て(IQ,ITQ,IVQ)となっていることが必要と思います」、「忘れてはならないのは、水産業の一番の元となる魚介類の資源管理である」、「日本の基幹産業として漁業者を守り、資源を把握し目に見えるような資源管理政策を打ち出す」、「資源管理の法律の制定。現場の漁師に任せるのではなく国が戦略的に取り組むべき」、「漁業者自身も誇りを持って仕事に携わっていました。若者の漁業に対する意識も高く、将来漁師になりたいと願う憧れの職業であり、後継者不足で悩む日本との違いを切実に感じました」等。
筆者は、東北の水産業、いや日本の水産業が、今でも世界一になれる高い潜在力を持っていることを知っています。科学的な資源管理方法を取り入れ、個別割当て制度を導入して行けば、「東北水産業を日本一」ではなく、世界一にすることも、決して夢ではないのです。1972~88年の実に17年間もの間は、世界一だったのです。広大なEEZ、豊かな海、高い技術は、まだ残っています。需要の拡大が見込める中国を含むアジア市場へも隣接しているので、資源が回復すれば輸出の可能性も広がって行きます。震災で甚大な被害を受けた三陸地区の復興には水産業が欠かせません。三陸は世界三大漁場の一つに隣接しているのです。
ノルウェー漁業大臣のスピーチ
「ノルウェーは世界の主要水産国家となるか?」
2012年9月に行われたノルウェーの漁業大臣(Lisabeth Berg-Hansen)によるスピーチを引用します。同国の水産業の成功と将来性に対する強い自信がみなぎっています。日本の水産業では、果たして次のような前向きな責任あるメッセージを、為政者は世界に発することができるでしょうか?