衆議院が解散した。政権選択の一つの要素は脱原発と言われている。例えば、菅直人前首相は、「脱原発か元の木阿弥かの選択」と述べている。選択するためには、現実的に実行できる政策でなければならないが、海外の主要マスコミは、菅前首相とは異なり、「革新的エネルギー・環境戦略」を実行可能な選択肢とは見ていないようだ。
例えば、ワシントンポスト紙は、2040年までの脱原発を目指す「戦略」を日本の夢と評している。ウォールストリートジャーナル紙は、スウェーデンの例を引き、今後様々なことが起こるのではとして、エネルギー戦略変更の可能性について触れている。1980年に30年後の脱原発を決めたスウェーデンは、電気料金と温暖化の問題から、結局原発の利用を続けることに方針を変更した。今でも発電の約40%を原発に依存している。
欧州事情の誤解に基づく主張も
脱原発を議論する際に参照される欧州のエネルギー事情に関する誤解も多い。10月13日付朝日新聞耕論欄「原発ゼロに踏み出す」に掲載された気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏の「強い覚悟で省エネ社会に」では、「シェールガス開発により天然ガスの価格は大幅に下がっています。欧州のようにエネルギー源を石炭から天然ガスにシフトすれば、温室効果ガスの排出量を減らせる」との記述があるが、事実関係が間違っている。米国のシェールガスの開発からの恩恵を受けることは全くなく、欧州では天然ガス価格が上昇し、米国とは逆に天然ガスから石炭へのシフトが起こっているのだ。
浅岡氏は、温暖化問題に取り組むNPOの代表であり「新大綱策定会議」のメンバーでもある。また、原子力規制委員会がヒアリングを行う対象者の一人としても名前が挙がっている。環境、エネルギー問題の専門家と言われる人でも、欧州の事情をよく知らないということだ。日本のエネルギー戦略を考える際には、欧米のエネルギー事情などの世界情勢を踏まえる必要がある。欧米のデータを理解しないまま日本の戦略を議論できるのだろうか。
石炭使用量が増える欧州
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米国でシェールガスの生産が本格的に開始されて以降、欧州では天然ガスの使用量が減少し、石炭の使用量が増加している。図-1はEU27ヵ国の天然ガス消費量の推移を示している。2011年の消費量は2010年を下回っている。一方、図-2は石炭の消費量だが、天然ガスとは逆に上昇傾向を示している。
福島の事故後、8基の原発の運転を停止したドイツの電源別発電量を見ても、天然ガスの比率が減少し、石炭の比率が増加している。2011年の総発電量は景気低迷、暖冬の影響があり、2010年の6286億kWhから6088億kWhに減少しているが、石炭・褐炭による発電は2629億kWh(41.8%)から2625億kWh(43.1%)にシェアを増やしている。一方、天然ガスによる発電は868億kWh(13.8%)から825 億kWh(13.6%)にシェアを落としている。
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