「無理に重機を入れて工事を進めようとすれば、血を見ることになりかねない」。反対派の住民団体「与那国改革会議」議長の崎原正吉さんを自宅に訪ねると、そう切り出された。反対の理由を問うと、「与那国島は長年にわたって台湾との交流事業で地域おこしを図ってきた。自衛隊が配備されれば周辺国に警戒感を与え、交流どころではなくなる。島外からも支援を受けて徹底抗戦を続けます」と興奮気味に答えが返ってきた。
これに対し推進派の町議である嵩西(たけにし)茂則さんは、「台湾との交流は30年も続けているが、島の住民が食べていけるだけの雇用は生まれない。島内に高校がないから若い人はどんどん離れていく。自衛隊と共存して島を盛り上げていくしかない」という。
終戦直後の混乱期に与那国島が台湾との密貿易の中継地として栄えた頃は2万人を超えた人口もいまや1600人を下回る。働き盛りの隊員やその家族が生活することで、島の経済の活性化につながると嵩西町議は期待する。
さらに同じ推進派町議の糸数健一さんは、「この島には駐在所が2つあるだけで那覇からも遠い。有事のときに島をいったい誰が守るのか。自衛隊は必要だ」とも力説する。推進・反対の双方ともに歩み寄る様子はなく、リコールに向けた動き次第では、防衛省が予定するスケジュールどおりに部隊の配備が実現するのか、まだ予断を許さない状況だ。
沖縄本島より西の宮古島から与那国島にかけての先島諸島は、日中が対峙する尖閣諸島に近く、いわば日本の防衛の最前線地域にあたるが、防衛体制の構築は十分とは言い難い。自衛隊幹部はこう嘆く。「先島諸島は宮古島にある航空自衛隊のレーダーサイトをのぞいて、自衛隊部隊が配備されておらず、防衛の空白が生じています。それなのに部隊の配備もままならない。日中間の対立感情がこれだけ高まっているなかで、不安すら感じる」。
(撮影:WEDGE編集部)
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。