この、いわゆる米国の「シェールガス革命」のおかげで天然ガスの供給量が飛躍的に増え、価格が下がった。さらに、米国が国内でシェールガスを消費するようになったことで、石炭の余剰が出るようになり、その石炭は安価で欧州に輸出されることになった。それにより、欧州の天然ガス需要が減っただけでなく、近年、欧州はカタールからの天然ガス輸出への依存度を高めており、結果、ロシアの天然ガスの欧州向け輸出量が低下するという流れができてしまった。
ロシアの天然ガス販売収入に影響が出るだけでなく、世界のガス価格が下落すれば、その損失分の補填のため、国内販売分の値上げもせねばならない。こうした現状から、国民がロシア経済の悪化を危惧して不満を高め、国内が混乱するのではと、プーチン大統領が危惧し、米国のシェールガス革命の情報がロシアに広まることを警戒していると言われている。
冷戦的構図?
シェールガスを巡るロシアとアメリカの攻防
このように、シェールガスによる天然ガス価格の下落は、在来型の天然ガスの主要な産地であったロシアと中東に大きな打撃を与えると考えられた。米国がロシアの優良顧客である欧州に液化天然ガス(LNG)加工をするなどして安い天然ガスを輸出できるだけでなく、欧州諸国の中にもシェールガスを保有する国が少なくなく、欧州の天然ガス自給率が高まる可能性があったからだ。
そのため、プーチン氏はシェール革命が欧州やロシアに及ぶことを嫌悪しているが、一方でロシアがそれに負けない対策を施すと意気込み始めたようにも見える。
プーチン大統領は、当時首相だった昨年末に「欧州のシェールガス開発がロシアの国営ガス石油会社・ガスプロムにどれほど脅威になり得るか」という質問を受けたところ、急に不機嫌になったという。そして、ノートを乱暴にたぐり寄せて、「水圧破砕法」の手法を図に描いて示し、その図をペンでつつきながら、「欧州各国の人々が、地下水汚染の可能性というその環境リスクを理解すれば、破砕法の使用は禁止されるだろう」と警告したという(Financial Times 10 July 2012)。
そして、今年4月11日に大統領に再登板する前の首相としての最後の演説では、「米国のシェールガス生産は世界の化石燃料市場の需給関係を再編することになる。ロシアのエネルギー企業はシェールガスの挑戦に対して準備することが必要だ」と述べ、「ロシアは技術開発による新しい波と外からのショックに対し準備する必要がある」と強調したという(山本隆三「エネルギーが変える世界」http://www.iza.ne.jp/event/energy/002.html)。