近年、中露関係の深化が顕著に見られるようになっている。かつて中露は、ソ連時代のいわゆる「中ソ対立」や国境問題により、関係が緊張していたが、ソ連解体からしばらく時を経て、両国は関係改善に利を見出すようになっていった。
複雑な中露関係
そして、1996年4月には、中露と中央アジア3カ国(カザフスタン、タジキスタン、キルギス)が安全保障、経済、文化など多面的な地域協力を推進するために「上海ファイブ」を結成し、2001年6月にはウズベキスタンも加わって、上海協力機構(SCO)として拡大・改組し、さらなる関係強化を続けている。
また、2004年10月14日に中露国境協定が最終的に妥結し、以後、両国関係の深化が極めて顕著になっていき、国際政治、国際経済の両面で欧米に対して共闘することも目立っていった。二国間関係の進展は2010年にピークを迎え、2011年1月1日には両国間の石油パイプラインも開通した。*注1
最近の国際事情でも、ロシアと中国は歩みを共にしていた。これまでもコソヴォや旧ユーゴスラヴィア問題で中露は欧米のスタンスを批判し、異なる道を選んできたが、最近でも、シリア問題など激動の中東情勢に対する欧米の政策を共に批判している(ただし、ロシアはリビアのカダフィー大佐の退陣に向け交渉を開始するなど、一部、米国に歩み寄る姿勢も見せている)。
このように、中露はお互いを戦略的パートナーとして認め合い、特にロシアはアジアでのパートナーとして日本ではなく中国を選んだのだが、その一方で、ロシアが地域的、および国際的に影響力を増している中国に対して警戒心を強めているのも事実である。特にロシアの「近い外国」である中央アジアへの進出には不快感を隠さない。このように中露関係は一筋縄にはいかない複雑な性格を有しているが、最近のSCOサミットや中露の天然ガス交渉でもやはり同じように、関係強化の一方で牽制し合うというような傾向が見て取れた。本稿では最近の出来事から中露関係の今に迫ってみたい。
SCOサミット~対欧米協調路線
2011年6月15日、SCOはカザフスタンの首都、アスタナでSCO創設10周年を記念するサミットを開催し、「アスタナ宣言」を採択して閉幕した。同宣言の中で、特に注目されているのが、北大西洋条約機構(NATO)に対する批判的な文言が含まれていることである。
まず、欧州が進めているミサイル防衛(MD)計画の一方的かつ無制限な構築は、世界の戦略的安定を損ねるとしている。前回の拙稿(「『リセット』できないロシアと米国」)でも述べたように、欧州MDでの協力問題は、ロシアが平等に共同のMD構築を求める一方、米国・NATOはそれを受け入れる用意はなく、両社の間で極めて大きな懸念材料となっているのだ。また、NATOのリビア空爆などを批判し、中東情勢を平和的手段で解決するよう求めた。
その一方で、加盟国首脳は、10年間の多面的な協力関係の構築を称賛し、さらなる関係強化を約束した。既述のように、旧ユーゴやアラブ諸国に対する欧米の政策に対しても中露は反対姿勢で協調してきたこともあり、この状況からは、SCOが米国とNATOに対抗している構図が見てとれ、冷戦期のワルシャワ条約機構とNATOの対立図式を彷彿させる。しかし、実は実態はそれほど単純なものではない。