両首脳は、ガスプロムの本社で会談し、同社のミレルCEOも同席していた。ミレル氏は、今年の半ばからパイプライン建設を開始すれば2015年からの天然ガス供給が可能であるとして、合意を後押した。しかし、結果的には、価格を巡る対立が解消せず、妥結には至らなかった。
交渉決裂の背景には、本交渉以前に、エネルギー貿易をめぐり、中露間の亀裂が拡大していたこともあった。中露間では、「太平洋パイプライン」の中国・大慶向けの支線が完成し、今年の1月から東シベリア産原油の輸出が始まっていた。しかし、CNPCは、ロシア側と合意していたはずの輸送料を不服とし、輸入代金の一部をロシア国営石油会社ロスネフチなどに未払いだったことが3月に明らかになったのである。中国側は支線を使えば、同パイプラインの終点として計画されている沿海地方のナホトカ近郊よりも輸送距離が短くなるのだから、輸送量も割安であるべきだという主張をしているのである。未払い金額は5月末時点で2億500万ドルに達し、ロスネフチは訴訟もちらつかせて強硬に迫った。5月末には、王岐山副首相と、モスクワでロシアのセチン副首相との天然ガス交渉を含めた両国のエネルギー協力対話が行われ、中国側は結局支払いに応じた。これを受け、セチン副首相は問題解決をアピールしたが、ロシア紙が、未払いがまだ5千万ドル以上残っていると報じるなど、どうやら問題はまだ完全には解決されていないようだ。
ロシアは、カタール産天然ガスの欧州市場における拡大などを背景に、対欧州輸出が最近停滞しており、中国が欧州レベルの価格でガスや石油を購入することを望んでいるが、中国は中央アジアからのガス輸入を始めたこともあり、欧州向けより1000立方メートル当たり100ドルも安い価格を主張している。具体的には、ロシアが欧州輸出向けの平均価格である1000立方メートル当たり352ドルに近づけるよう要求しているのに対し、中国側は旧ソ連中央アジア諸国からの輸入価格に近い250ドルを主張し、双方が主張する価格差の乖離が交渉を難航させたのである。立場的にはロシアが弱いとも言える。
もし今回の天然ガスの交渉が妥結していれば、中露戦略的パートナーシップの強力さをアピールする上で、象徴的な出来事となったはずだが、交渉決裂により、逆に中露間の溝を露呈することとなった。
本交渉については、今年10月に予定されているプーチン首相の訪中時の妥結を目指し、交渉が継続されるとロシアでは報じられているが、交渉決裂については、中国メディアは触れておらず、今回の主席訪露の成功を強調する報道に終始しているという。
エネルギー外交~政治と経済の論理
このように、中国へのロシアの天然ガス輸出問題については、中央アジアなど供給源の多角化に成功している中国が、ロシアからより安いガスの価格と有利な輸送の条件を引き出すためにじっくり構えていると言える。エネルギー外交は、パイプライン政治に象徴されるように、経済より政治の論理が優先されることも多い。中国も本件を政治における重要なカードとして利用しようとしているのは間違いない。ロシアが資金欲しさに交渉を急げば、中国が政治的ポジションを強化することになるからだ。