「サラリーマン生活の最後が近くなって、組織の肩書きを持たない裸の自分を試してみたかったんです」
(撮影:編集部)
通信機器開発のエンジニアだった富田栄蔵さん(65)は2006年、59歳のとき沖電気工業を退職した。「退職金のかなりを投じて」はじめたのは、ラオスでのラム酒造りだ。
「2000年頃、政府がバイオ、ナノテク、環境、ITを重点分野と言って注目されました」。経営企画部門で新ビジネス創出を担当していた富田さんは、環境に興味を持った。
同じ頃「兄貴から連絡があったんです」。兄の安亮さんは、1987年に脱サラしてタイで縫製事業をはじめ、ラオスでも事業を拡張していた。「サトウキビを使った農産物加工で10年間世話になったラオスで恩返ししたいが何かないか?」という相談だった。
ラオスはサトウキビ栽培の適地で、温暖化対策にも適している。事業化のリサーチをはじめていたのがラム酒だった。バイオエタノールのような工業生産品と違い「ラム酒のような嗜好品」であれば生産プロセスの工夫で競争力のある酒造りができる可能性がある。
候補のラム酒は、砂糖を生産した後の廃糖蜜を使うインダストリアル(工業産品)と呼ばれる一般的な製法ではなく、アグリコール(農産品)法というサトウキビの搾り汁をそのまま使う製法が好ましいと考えた。アグリコール・ラムは搾りたてのサトウキビ汁が必要であるため、収穫期(12月から3月)の4カ月間しか製造できないことが農産品といわれる所以で、世界のラム酒生産量のうち3%くらいしかない。
生産にあたっては、サトウキビの栽培には農薬を使わない、排水は浄化して灌漑用とする、ボイラーの燃料には化石燃料である重油は使わないで、サトウキビの搾りかすを使うなど環境へのインパクトを軽減する仕組みを考えた。