英国北海の知に学ぶ
洋上風力フロントライン
ヨーロッパ大陸とブリテン諸島の狭間に広がり、かつては豊富な油田・ガス田で知られた北海。その沿岸部は今、洋上風力エネルギーの一大拠点となった。年間を通じて風況がよく、水深50m以下という遠浅の大陸棚が続く地の利を得て、大海原に白く巨大な風車が林立する光景が随所にある。
英国東部の北海沿岸もその一つ。洋上風力の世界シェア9割を占める欧州の中でもトップを走る英国が、世界最大級を自認する海のウィンドファームの建設現場がここにある。沖合30㎞の海域に建つ「トライトン・ノール洋上風力発電所」がそれだ。単基出力9500kW、直径164mの巨大風車90基が立ち並ぶ計画で、年内の全基運転開始を控えて一部は5月から運転中(9月末現在)。合計出力86万kWは大型火力発電所並み、日本の一般家庭でいえば約80万世帯に電力を供するポテンシャルを持つ。
Jパワー(電源開発)は建設初期の2018年からこのプロジェクトに参画。世界的な再エネ企業、RWE社が運営する事業会社の株式25%を取得するとともに、エンジニア2名を現地に派遣した。東京からもメンバーが定期的に現地の運営会議に参加。その一人として調査・参画段階からプロジェクトの動向を見続けてきた湯屋博史氏(国際営業部再生可能エネルギー開発室統括マネージャー ※取材時)はこう話す。
「世界的に見て、洋上風力はこれからの再エネの主力となり得る電源です。日本も例外ではありません。洋上風力で世界3位といわれるRWE社が持つノウハウや英国の手法に多くを学び、建設・運転・保守に関する知見を獲得して日本の今後に生かしたい。そのために協議を重ね、チーム一丸となって案件参画を実現させました」
世界風力エネルギー協会によれば、世界の洋上風力は2030年には7倍以上の2億7000万kWへと拡大する。日本でも政府が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表、2040年までの導入目標を3000〜4500万kWとするなど期待感が高まる。
この流れに先駆ける海外洋上風力事業への参画は当時、日本の電力会社として初の試みだった。Jパワーは70年前の発足以来、大規模水力を中心に再エネ開発の歴史を刻んできた企業であり、陸上風力の開発にもいち早く乗り出し、20年超の実績がある。現在、水力・風力の発電量はともに国内2位。「そのトップランナーとして洋上風力の未来も牽引したい」と湯屋氏は意欲を見せる。
Jパワーが未来を拓く
日本の洋上風力
では、そのために必要な知見とは何か。6月まで英国に駐在した笠原覚氏(現・風力事業部響灘洋上風力建設準備室長)は言う。
「天候や海象に大きく影響される洋上では、特殊な設計や建設技術、工程管理が要求されます。海洋環境への配慮も必要ですし、運転開始後のメンテナンスも陸上とは異なります。それら細部の技術とプロジェクト全体のマネジメント、リスクへの対処法といったすべてのことが貴重な収穫でした」
笠原氏によれば、それらは今、北九州市沖の響灘で2022年度の着工を目指して進展中の大規模洋上風力事業に適用されつつある。トライトン・ノールと同等出力の巨大風車二十数基で22万kWは、国内洋上風力のエポックメイキングとなる存在。商業ベースでの事業が本格化するなか、Jパワーを含む5社の企業連合による民間プロジェクトとしても期待がかかる。
台風や地震など日本特有の障壁もある。「英国モデルを参照し、一つひとつ課題を乗り越え未来へつなげたい」と笠原氏が言うように、Jパワーでは響灘に続き、コンソーシアムを組んで秋田県沖の洋上風力開発を目指すほか、長崎県西海市江島沖、北海道檜山沖、福井県あわら市沖で次々と海底地盤調査などの準備を進めている。
洋上では陸上に比べて風が安定しやすく、立地や資機材運搬の支障も少ないため、海洋国家・日本の開発ポテンシャルは大きい。関連産業の裾野が広いため経済振興・雇用促進の面でも有望である。
一方、陸上風力の新規開発、設備更新(リプレース)も進展中だ。Jパワーは現在、国内23地点に風力発電所を構える。大規模風力の先駆けとして知られる北海道苫前ウィンビラ発電所など、複数の地点で更新工事を実施中。最新機種を導入し、発電効率の大幅な向上を図る。現在建設中の地点も稼働する2023年度の風力発電設備の合計持分出力は、陸上・洋上を含めて約86万kWとなり、21年比で6割増しの勢いだ。
その背景には、Jパワーがカーボンニュートラル実現に向けて掲げる「2025年度までに再エネ新規開発で150万kW増(2017年度比)」の目標があり、水力分野でも中小設備の新規開発や大規模設備のリプレースが進む。
グローバルに展開する再エネ新規開発もその一環。中国やタイでの既存事業に加え、米国・豪州などで太陽光や風力、水力のプロジェクトに次々と参画(図参照)。エネルギーを不断に供給しながら、脱CO2を推進する。二つの使命に挑戦する企業の未来は洋々だ。